社会保険労務士試験を受験するのは会社員が多いですが、試験に合格したことで新たなキャリアを目指そうとする人は多いのではないでしょうか。
働き方が多様化、複雑化するなかで、専門家のニーズは高まっています。
社労士は、労働・社会保険に関する専門知識を持つ国家資格ですので、企業の人事総務などで働いている人であれば、そのまま職場で専門性を活かして仕事に取り組むことができるようになるでしょうし、転職や独立にも有利です。
社労士法人・事務所の勤務であればステップアップして、任される業務範囲が広がったり、自分の開業に向けて具体的な準備を始める人もいるでしょう。
そして、全く別の職種から社労士試験に合格した人や未経験から実務経験を積みたいと考える人も少なくないはずです。
未経験の社労士と言っているのは、社労士登録をするための実務経験がない試験合格者と社労士登録をしている社労士業務が未経験の資格者を意味していることがあります。
- 資格登録をしていない社労士試験の合格者
- 社労士業務が未経験の資格者
試験に合格しても、社労士の資格者として活動するには2年の実務経験が必要になりますので、どこかで「労働・社会保険諸法令に関する業務」をしなければなりません。
ここでは、どちらの未経験の人にとってもおすすめの転職先を5つ厳選してご紹介します。
社会保険労務士の転職先
社労士として活動するには、社労士会に登録することが必要です。登録するには「労働・社会保険諸法令に関する業務」の実務経験が求められます。
実務経験がない場合でも、全国社会保険労務士会連合会が実施する事務指定講習を修了することで実務経験があるものとして認められます。
労働・社会保険諸法令に関する業務
社労士として登録するために必要となる実務経験の「労働・社会保険諸法令に関する業務」とは、具体的にはどのような内容なのでしょうか。
全くの未経験の人はもちろん、人事部に所属していても、他の業務しか経験していない人もいるでしょう。
試験に合格したことで、社内異動ができたり、実務経験になる業務を担当することができるのであればそれに越したことはありません。
ですが、そううまくいくとは限りませんので、転職するのであれば、次のような業務ができそうな求人を探すことになります。
労働保険の業務
労働保険は労災保険、雇用保険のことです。
- 労災保険:1年に1回の労働保険の申告がメイン業務
- 雇用保険:入退社の手続きがメイン業務
社会保険の業務
会社が加入する社会保険は健康保険、厚生年金、介護保険のことです。
- 健康保険・厚生年金:住所変更、保険料の定時決定・随時改定がメイン業務
- 傷病、出産などで個別に発生する給付手続き
社労士におすすめの勤務先
未経験からチャレンジできて社労士の知識を活かせるおすすめの転職先はこちらです。
- 社会保険労務士法人・事務所
- 企業の人事総務部門
- 人材業界(派遣・紹介)
- アウトソーシング会社
- 行政機関・公共団体(期間職員・任期付職員)
社労士試験の合格者が「労働・社会保険諸法令に関する業務」の経験ができるのは、一般的には社労士法人・事務所か企業の人事総務部門にチャンスが多いでしょう。
未経験の場合、最初のステップとして社労士法人や一般企業の担当者として実務経験を積むのが現実的ではあります。
現在の仕事や目指すキャリアによって、他の選択肢も考えられますので、順番にご紹介します。
社会保険労務士法人・事務所
おすすめ度 | ★★★★★ |
求人数 | 少なめ |
社労士試験に合格して、社労士法人・事務所に勤務するというのは王道の進路だといえるでしょう。
アシスタントやスタッフとしてスタートして、ステップアップしていきます。
ただし、求人は都市部に集中する傾向がありますので、地域によって差があります。試験合格者だというだけで未経験から簡単に採用されるわけではありません。
現在、企業勤めで中堅クラスの人であれば、未経験者としての転職で給与がダウンする可能性も考えておく必要があります。
仕事の例
- 労働・社会保険の手続き
- 給与計算
- 顧問先対応
ポイント
- 小規模な事務所であれば幅広く業務を経験できる
- 法人・事務所内でステップアップできる
- 実務経験を積んで独立開業を目指せる
企業の人事総務部門
おすすめ度 | ★★★★ |
求人数 | やや多い |
企業の人事総務部門も人気の転職先です。企業の求人は社労士法人・事務所よりは多めですが、もともと労働市場のなかで人事総務系の求人はあまり多くはありません。
中小企業やスタートアップでは、労務の専門家が不足していますので、チャンスが多いといえます。
ただし、採用されても幅広い人事総務の業務のなかで、実務経験となる業務を担当できるかどうかはわかりません。
試験に合格していることは専門知識が身についているということですので、まずは採用されることを優先して、入社してから実務経験になる業務を希望していくことも選択肢のひとつです。
仕事の例
- 勤怠・給与管理
- 社会保険の手続き
- 就業規則の整備
ポイント
- 社内に専任の労務担当がいない企業では専門家として評価されやすい
- スタートアップなど裁量が大きい企業ではスキルアップも早い
人材業界(派遣・紹介)
おすすめ度 | ★★★☆ |
求人数 | 多い |
労働者派遣事業・職業紹介事業の許可・届出は社労士業務ですので、社労士の専門知識は、人材業界で高く評価されます。資格取得を奨励している企業もあります。
派遣スタッフの労務管理においても、その専門知識を活かすことができます。
仕事の例
- 事業の許可申請と更新
- 派遣スタッフの労務管理
ポイント
- 社労士の専門性が業務の信頼性を高める
- 派遣事業では入社、退社が多く、手続きのスキルアップができる
アウトソーシング会社
おすすめ度 | ★★★☆ |
求人数 | 中程度 |
アウトソーシング会社では、クライアント企業の労務や給与計算を請け負っています。教育体制が整っている企業が多く、未経験からでもチャレンジしやすいといえます。
仕事の例
- 給与計算
- 年末調整
- 労務関連の書類作成
ポイント
- 複数の企業の労務管理を経験できる
- スキルアップ重視の人におすすめ
行政機関・公共団体
おすすめ度 | ★★★☆ |
求人数 | タイミングによる |
労働局や年金事務所などの行政機関では、期間職員や任期付職員を募集することがあります。助成金や雇用保険等に関連する業務では、社労士の専門知識を活用することができます。
求人は限られますが、社会的意義も大きく、人気のある進路です。
仕事の例
- 助成金審査業務
- 雇用保険関連業務
- 労働相談対応
ポイント
- 公的な職場で経験を積める
- 期間が決まっているのでその後のプランがある人におすすめ
未経験から転職するためのポイント
試験に合格したのですから新たなキャリアを目指したい人は多いでしょう。ただし、社労士に限りませんが、社会人採用では即戦力となる実務経験が重視される傾向にあります。
未経験で採用されるためには、次のようなポイントを押さえて活動しましょう。
アピールできること
未経験からの転職であれば、自分を採用することで、どのようなメリットがあるかを伝えることが重要です。
社労士試験に合格
社労士の資格取得を奨励している企業もあります。また人材育成に熱心な企業であれば、実務経験はなくても自己啓発として試験に合格した努力や姿勢を評価してくれる可能性があります。
入社後の貢献
未経験から採用されるには、入社して具体的にどのような貢献ができるかということが重要です。
自分が実務経験を積みたいからではなく、社労士の専門知識を活かして、どのように貢献できるかを伝えましょう。
前職での経験
社労士としては未経験であっても、前職での経験を強みにできます。
社労士の業務に活かせそうな分野であったり、コミュニケーション力、事務処理能力、調整・交渉力など社会人として培ったスキルをアピールしましょう。
成長イメージ
資格のある未経験者と資格のない経験者のどちらが選ばれるかは求人内容や本人次第だといえます。
即戦力にはなれなくても「成長意欲」をアピールして、未経験からでもすぐに戦力になりそうだとイメージしてもらえることがポイントです。
転職の成功戦略
転職は求人企業と転職希望者のニーズが合致すれば成立するわけですが、それぞれ状況が違いますから、求人ごとにきちんと戦略を立てることが重要です。
社労士に限らず一般論として、担当者レベルの転職は30代前半までの採用が多くなります。
それ以降は、リーダーやマネジメントとしての働き方が期待されるようになってきます。つまり未経験者には不利になる可能性が高いということです。
では、30歳代後半になると経験者や管理職以外での転職はできないのかというと、そこは戦略次第ということになります。
例えば、社労士としては未経験であっても、前職で営業経験がある人であれば、資格のない経験者より優遇される業界や職種も考えられるということです。
また、働き方は多様化していますので、必ずしも管理職を目指さないキャリアも可能になっています。
社労士であれば、専門職としてスペシャリストを目指す道もあるでしょう。
実務経験の積み方
未経験から実務経験を積める可能性が高いのは、社労士法人・事務所のアシスタント業務からスタートすることです。
未経験者歓迎の求人を探して、最初は補助的な業務(書類作成や申請手続き)から担当できるとよいでしょう。
履歴書・職務経歴書の作成
未経験だからアピールできる経験はないと考えてはいけません。
未経験だからこそ、社労士を目指したきっかけや自分の強みについて、具体的なエピソードを交えながら伝えましょう。
転職するための具体的な方法
転職するにはいくつかの方法があります。できるだけ多くの情報を収集して、自分に合った求人を見つけることをおすすめします。
求人情報の収集
転職サイトやエージェントなどのサービスを積極的に活用して、求人情報を収集します。
前職のキャリアにもよりますが、資格者の募集や未経験者歓迎の求人から検討するとよいでしょう。
人脈を活用する
セミナーや勉強会に参加して、人脈を広げることで得られる情報があります。同業者のネットワークは転職活動の強みの一つになります。
アルバイトや派遣社員として経験を積む
なかには、未経験者歓迎の求人では、待遇面で折り合いがつかない、という人もいるでしょう。
まずは、短期的に実務スキルを身につけることができる職場を選び、キャリアの足掛かりとするのも一つの方法です。
転職後のスキルアップ
社労士のキャリアは転職できれば成功というわけではありません。転職先でのキャリアアップを目指す人もいれば、将来的な独立開業を目指して準備する人もいるでしょう。
転職してからは、次のようなことを意識しながら、業務に取り組むことが重要です。
実務スキルの向上
実務経験が浅い段階では、日々の業務を通じてスキルを磨きましょう。わからないことは積極的に質問して、業務の幅を広げていきます。
最新情報の更新
労働や社会保険関係は改正が多いため、常に情報を更新していくことが必要になります。セミナーや研修を活用して最新情報をキャッチアップしましょう。
キャリアプランを描く
将来的に独立を目指すのか、企業内のスペシャリストとして活躍するのか、自分の目標に応じてスキルを磨くことが大切です。
転職のメリット
転職は社労士としての第一歩となり、新たなキャリアの可能性を広げることにつながります。
社会的な信頼と意義のある仕事
企業の成長と働く人の環境を支える役割を担い、やりがいを持って働き続けることができます。
専門職としてのキャリア形成
社労士の専門知識は長期的に活かせるスキルですので、経験を積んで、スペシャリストとしてのキャリアを進むことができます。
自分でキャリアを選択
社労士は開業やフリーランスとして独立できますので、自分でキャリアを選ぶことができます。
まとめ
未経験の社労士が転職するのは簡単なことではありませんが、キャリアチェンジの道が簡単ではないのは、社労士だけではありません。
試験に合格した努力や身につけた知識は大きな強みです。適切な戦略とアピールで転職を実現することは十分に可能です。
学び続ける熱意、貢献する姿勢を伝えることが重要です。求人企業や事務所にとって採用したい人になるための参考になれば幸いです。
社労士事務所の職員については、こちらの記事でご紹介します。

参考:厚生労働省、全国社会保険労務士会連合会