社会保険労務士は、独立開業できる資格ですが、実際は、企業や社労士事務所で活躍する「勤務社会保険労務士」も多くいます。
ここでは、勤務社労士について、役割や働き方を「企業で働く社労士のイメージが湧かない」という人にもわかりやすくFAQ形式でご紹介します。
勤務社会保険労務士に関するFAQ
勤務社会保険労務士とは、「勤務」登録をしている社会保険労務士の資格者のことです。
社労士事務所や企業などに雇用され、労働・社会保険に関する業務などを担当しています。
勤務社労士と開業社労士の違いは?
勤務社労士は開業社労士のように独立して事務所を開設することはせずに、組織の一員として働きます。
項目 | 勤務社労士 | 開業社労士 |
---|---|---|
雇用 | 企業・団体に雇用される | 自ら事務所を開業 |
業務 | 企業内の労務管理、社保手続き、人事制度設計など | 企業からの依頼で社保手続き・労務コンサルなど |
責任 | 企業の社員として業務を遂行 | 自己責任で業務を遂行 |
収入 | 給与制 | 事業収益 |
勤務社労士になるには何が必要?
まず、社会保険労務士になるために、社労士試験に合格する必要があります。
試験に合格して、社労士会の社労士名簿に登録を受けると、正式に「社会保険労務士」として活動できるようになります。
登録の流れ
- 入会予定の社労士会に登録申請書を提出
- 都道府県社会保険労務士会:受付、審査
- 全国社会保険労務士会連合会:審査、社労士名簿・証票の作成
- 登録完了後2週間程度で証票を発行
勤務社労士が働く職場は?
社労士の実態調査(全国社会保険労務士会連合会)によると、勤務社労士の勤務先業種は割合の高い順に、次のとおりとなっています。
- 社労士事務所または社労士法人
- 製造業
- 金融・保険業・不動産業
- サービス業(上記以外)
- 公務
- 医療・介護・福祉
- 卸・小売業
- 情報通信・IT
- 土木・建設業
- 士業(社労士を除く)事務所
- 運輸業・郵便業
- 健康保険組合、年金事務所
- 教育・学習支援業
- 人材派遣業
- 政治・経済・文化団体
- その他
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
勤務社労士の仕事内容は?
勤務社労士の業務は、勤務先は所属の部署によって変わってきますが、主に次のような業務を担当します。
労働・社会保険の手続き
労働・社会保険の各種手続きを担当します。従業員の入退社に伴う手続きはもちろん、育児休業や介護休業などの申請も対応します。
就業規則の作成・改定
社内ルールを整備するうえで、就業規則の作成や改定は中心となる業務です。法改正に対応し、実情に合った規則を整備する役割を担います。
労務相談・社内研修の実施
働き方やハラスメント防止など、企業の人事課題に対する相談や研修を行うのも勤務社労士の仕事です。
助成金申請や人事制度の整備支援
助成金の申請や、新しい人事制度の導入時に専門知識を活かして支援します。中小企業の人事部門では高く評価されるスキルです。
勤務社労士の年収は?
勤務社労士の年収は、企業規模や業界、地域によって差がありますが、実態調査の結果では、「300万円以上600万円未満」の割合が最も高く、次いで「600万円以上900万円未満」の割合が高くなっています。
年収 | 割合 |
---|---|
収入なし | 3.5% |
300万円未満 | 16.8% |
300万円以上600万円未満 | 38.0% |
600万円以上900万円未満 | 25.0% |
900万円以上1200万円未満 | 10.7% |
1200万円以上1500万円未満 | 3.4% |
1500万円以上2000万円未満 | 1.5% |
2000万円以上 | 0.9% |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
勤務社労士の職業生活の状況は?
労働社会保険諸法令に関する事務に従事している勤務社労士は、次のような職業生活を送っています。
あなたの社労士としての職業生活において、お答えください。
回答 | 当てはまる | 当てはまらない |
---|---|---|
専門性の高い仕事ができる | 92.6% | 6.8% |
労働者等や企業に貢献できていると実感できる | 86.3% | 13.1% |
社会的責任のある仕事ができる | 82.0% | 17.1% |
社労士業務を通じて社会貢献できる | 72.7% | 26.6% |
社会全般にわたって、幅広く活躍できる | 63.1% | 36.0% |
社会的弱者や少数者のために仕事ができる | 53.1% | 46.0% |
社会的な地位が高い | 45.9% | 53.2% |
経済的に有利になる | 38.5% | 60.6% |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
社労士になった理由(勤務社労士)
あなたが社労士を志望された動機について、お答えください。
回答 | 当てはまる | 当てはまらない |
---|---|---|
専門性を発揮できるから | 90.6% | 7.9% |
興味がある分野だから | 90.2% | 8.5% |
社会的責任のある仕事ができるから | 71.6% | 26.3% |
社会的な地位が高いから | 43.2% | 54.6% |
他から干渉されずに自由で独立した仕事ができるから | 39.8% | 58.1% |
経済的に有利になるから | 37.9% | 59.8% |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
勤務社労士登録するメリットは?
実際に登録した勤務社労士は、次のようなメリットを感じています。
あなたは社労士登録をして、どのようなメリットがありましたか。
項目 | 割合 |
---|---|
就職・転職でのメリットがあった | 27.4% |
職場でのキャリア形成にメリットがあった | 27.3% |
賃金面(昇給・手当支給など)でメリットがあった | 22.0% |
メリットは特にない | 32.7% |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
勤務社労士は事務所や企業に雇用されていますので、社会保険や有給休暇、賞与など安定した働き方ができます。
収入面でも毎月安定しているのはメリットです。
勤務社労士の将来性とキャリアパスは?
企業内で昇進・管理職になるケース
人事部門のリーダーやマネージャーに昇進する勤務社労士もいます。社労士資格は人事分野での評価を高める強力な武器です。
他士業やコンサルとの複合スキル
税理士や中小企業診断士などの資格を持つことで、より広い分野に携わることができます。
勤務社労士としてスキルを磨き、将来的な独立開業に備える人もいます。
独立開業の選択肢
勤務社労士として企業内で経験を積んでから、独立開業を目指す人も少なくありません。
企業での実務経験は、独立後の大きな強みになります。
勤務社労士の開業意向は?
実態調査委によると、勤務社労士として働く4割程度の人に開業意向があると見られます。
あなたは今後、社労士として開業する意向はありますか。
回答 | 割合 |
---|---|
近い将来(1~3年以内)に開業予定 | 5.9% |
時期は決まっていないが将来的には開業したい | 32.9% |
開業する意向はない | 61.0% |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
開業しない理由を教えてください。
回答 | 割会 |
---|---|
顧客確保が難しいと思うから | 42.2% |
現在の状況に満足しているから | 40.1% |
自分の能力不足を感じているから | 31.9% |
収入が安定しないから | 26.7% |
経営者になると責任が大きくなるから | 16.8% |
資格取得が目的だったから | 8.8% |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
勤務社労士が独立開業するには?
勤務社労士が将来的に独立開業することは十分に可能です。
勤務社労士としての実務経験は、開業後に顧客から信頼を得るうえでも大きな強みになります。
独立開業する際には、社労士会へ「開業登録」の手続きを行う必要があります。
勤務社労士は登録内容を切り替える(開業登録へ変更)ことで開業社労士として活動できます。
まとめ|勤務社労士は専門職として活躍できる!
勤務社労士は資格を活かして、人事・労務業務を担当することができます。労務管理のプロとしてスキルアップできる環境も整っているでしょう。
一方で、企業内で働く以上、クライアントを自由に持てない(契約の主体になれない)などの制約はあります。副業や兼業においても、社内のルールに従う必要があります。
開業だけではなく、勤務社労士という働き方は「安定した収入」や「社内でのキャリア形成」を重視したい人にとって魅力的な選択肢になります。
これから勤務社労士を目指したい人の参考になれば幸いです。
参照:全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」