転職市場が活発になり、同業他社に転職するケースも珍しいことではなくなりました。
前職の経験を活かして、よりよい条件を目指せる可能性がありますので、希望する人も多いでしょう。
同業他社の転職はキャリアアップのチャンスであると同時に責任やリスクも高くなりますので、注意する必要があります。
ここでは、同業他社へ転職するメリットと注意点についてご説明します。
同業他社への転職
同業他社への転職は活躍できる可能性が高い一方で、退職の仕方によっては人間関係が悪化する可能性も考えられます。
余裕のあるスケジュールで計画的に進めることをおすすめします。
同業他社へ転職するメリット
キャリアアップを目指すときに、これまでの経験を活かして同業他社への転職を希望する人は多いでしょう。
転職を希望する人にとっても採用する企業にとっても多くのメリットがあります。
即戦力として活躍できる
同じ業界での経験があるため、業務内容や専門知識をゼロから学ぶ必要がなく、入社後すぐに貢献できる可能性が高いです。
そのため、企業側も即戦力として期待し、好待遇で迎え入れることが多くなります。
キャリアアップのチャンスが広がる
現在の会社では昇進やスキルアップの機会が限られている場合でも、同業他社に転職することで新たなポストや職務範囲を得ることができます。
特に外資系企業や成長企業であれば、より多くのチャンスが期待できます。
業界特有の知識や人脈を活かせる
業界内のトレンドや習慣、競合情報を把握しているため、新しい環境でも比較的スムーズに適応できます。
これまで築いた人脈を活かして、新たなビジネスチャンスをつかめる可能もあります。
年収アップが期待できる
一般的には前職を参考として給与設定されることが多いですが、スキルや実績によっては年収が大きくアップするチャンスがあります。
同業他社の場合、即戦力としての期待が高いため、待遇の向上が見込まれます。
同業他社へ転職するときの注意
同業他社へ転職するときに、特に注意が必要となるのが「秘密保持義務」と「競業避止義務」です。就業規則などに秘密保持と競業禁止の規定があることは少なくありません。
これらは、企業の知的財産や営業秘密を守るために設けられていて、違反すると法的な責任を問われることがあります。
機密情報の取り扱い
在職中に情報の取り扱いについて義務があるのは当然ですが、退職後も一定の制限を受けることがあります。
情報の持ち出しは法的問題に発展する可能性があるので、機密情報かどうかを自己判断するのは危険です。
企業文化の違い
同じ業界とはいえ、企業ごとに社風や働き方が異なります。そのため、新しい環境に適応するまでに時間がかかることもあります。
前職での成功体験が新しい会社で通用しないこともあるため、柔軟な姿勢が求められます。
秘密保持義務とは
秘密保持義務とは、在職中または退職後も、業務で知り得た企業の営業秘密を不正に使用したり、承諾なしに第三者に開示したりしない義務のことです。
多くの企業では、入社時にリスク回避として、秘密保持義務を含んだ内容の誓約書を求めています。在職中の秘密保持義務は当然と考えられ、違反すれば、懲戒処分を受けたり、解雇される可能性があります。
また不正競争防止法には「営業秘密」の規定があり、不正に利益を得るなどの目的で営業秘密を第三者に漏洩した場合は、民事上の損害賠償責任だけでなく、刑事罰の対象となります。
営業秘密
不正競争防止法で保護される営業秘密は、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。
秘密保持義務違反
秘密保持義務違反による処分については、開示された秘密情報が守秘義務の対象となるかどうか、開示されたと評価できるのかどうかなどによって判断されます。
- 製品開発の技術情報を他社に漏洩する
- 取引先の情報を競合企業に提供する
- 内部の営業戦略を転職先で活用する
転職者の秘密保持義務
転職者が秘密保持義務に違反して、転職先の企業へ秘密情報を開示・漏洩した場合、本人が契約違反を問われるだけでなく、転職先の企業も不法行為責任を問われ、競業行為の差し止め請求をされる可能性があります。
経験者採用では、秘密保持義務や競業避止義務などコンプライアンスに関する誓約書の提出を求められることが多くなっています。
不合理な内容であれば、誓約書は無効となりますので、就業規則の規定とともに内容をよく確認して提出することをおすすめします。
競業避止義務とは
競業避止義務とは、競合する企業に就職したり、自ら同業種の事業を運営するなどの行為を制限する義務のことです。
自社の利益を守るために就業規則に競業他社への就職の禁止を定めたり、競合しないことを誓約書に含んでいる企業は少なくありません。
退職後においては、職業選択の自由の観点から競業禁止義務は生じないとされますが、就業規則などで、必要かつ合理的な範囲で法的根拠を明示していれば、競業避止義務を認めるのが一般的になっています。
職務経験を活かして、在職中に身につけた知識やスキルを活用できなければ、転職先が制限されてしまいます。
企業は転職の自由を不当に制限しない範囲で、競業禁止の期間や場所、職種等を明示する必要があるとされています。
競業避止義務の要件
- 在職中に企業の秘密情報を知り得る立場にあったこと
- 競業を禁止するに値する企業の正当な利益があること
- 競業禁止の期間・地域・対象について合理的制約であること
- 転職先を制限することに対する代替措置があること
退職後の競業義務違反
退職するときに「守秘義務の誓約書」を提出するよう求められることがあります。在職中に得た企業秘密や顧客情報を漏洩したり、他社で使用しないことを誓約するものです。
違反すると退職金の減額・不支給、損害賠償請求、競業行為の差し止めなどが可能とされています。
企業の独自ノウハウや技術が競合他社で使用されることは利益を損なうことになりますが、転職先では、そのノウハウや技術に期待して採用することも多いといえるでしょう。
どれだけ企業秘密に関わっていたか、職務や役割の違いで秘密情報に接する機会には個人差があり、ケースごとに判断されるのが実情です。
競業避止義務が有効とされる目安
- 期間が合理的であること(1~2年程度が一般的)
- 地理的範囲が合理的であること(全国規模の制限は無効とされる可能性がある)
- 対象となる職務内容が限定的であること(広範な制限は無効とされる可能性が高い)
- 対価の提供があること(制限を課す代わりに一定の補償が支払われること)
これらの条件を満たさない場合、競業避止義務が無効と判断される可能性があります。
競業避止義務違反になる可能性
- エンジニアが、競業他社に転職し、前職の技術を活用する
- 研究員が、自社の研究成果を活かして競業他社に就職する
- 営業職が、競合企業の営業職に転職し、取引先情報を活用する
このようなケースでは、競業避止義務違反が問われる可能性が高いですが、競業避止義務の要件が広範囲に及びすぎると無効とされるケースもあります。
転職するときに確認するポイント
義務に違反すると訴訟や処分のリスクが発生しますので、義務が適用される範囲や可能性について誓約書などの内容を確認しておきましょう。
リスクの回避
- 秘密保持義務や競業避止義務の有無
- 前職の情報を転職先で使用しない
- 転職先が競業避止義務を考慮しているか確認する
- 必要に応じて弁護士に相談する
まとめ
転職における秘密保持義務と競業避止義務は、企業の利益を守るために重要な規定ですが、働く人の権利とのバランスも求められます。
競業避止義務については、合理的な制限でなければ無効となる可能性があります。
転職を考えている人は、退職前に契約内容を確認し、違反のリスクを回避することが重要です。前職の経験を活かしてよりよいキャリアを築くための参考になれば幸いです。
①キャリアアップを目指せる資格を見極める
②教育訓練給付制度(資格取得に使える支援)を知る
③転職・就職に有利な士業資格を取る
④転職で必要とされるTOEIC対策をする
⑤キャリアアップ転職の戦略を立てる
⑥秘密保持・競業避止義務に注意する
早期退職についてはこちらの記事でご紹介します。

人事担当のセカンドキャリアについてはこちらの記事でご紹介します。

参考:内閣府、厚生労働省