転職市場が活発になり、同業他社に転職するケースも珍しいことではなくなりました。
前職の経験を活かして、よりよい条件を目指せる可能性がありますので、希望する人も多いでしょう。
同業他社の転職はキャリアアップのチャンスであると同時に法的な責任やリスクが伴います。
ここでは、同業他社への転職の注意点について、秘密保持義務と競業避止義務の基本知識、違反のリスク、トラブルを回避するための対策についてわかりやすく解説します。
同業他社への転職で問題になりやすい「2つの義務」とは?
まずは、同業他社への転職で特に注意が必要となる「2つの義務」について押さえておきましょう。
- 秘密保持義務
- 競業避止義務
「秘密保持義務」とは、在職中または退職後も、業務で知り得た企業の営業秘密を不正に使用したり、承諾なしに第三者に開示したりしない義務のことです。
「競業避止義務」とは、競合する企業に就職したり、自ら同業種の事業を運営するなどの行為を制限する義務のことです。
どちらも元の勤務先をの利益を守るためのものですが、違反すると損害賠償や差止請求など、重大なトラブルに発展することがあります。
機密情報にアクセスしやすい職種や立場だった人は、特に注意が必要です。
秘密保持義務の根拠とは?
多くの企業では、入社時にリスク回避として、秘密保持義務を含んだ内容の誓約書を求めています。
在職中の秘密保持義務は当然と考えられ、違反すれば、懲戒処分を受けたり、解雇される可能性があります。
また不正競争防止法には「営業秘密」の規定があり、不正に利益を得るなどの目的で営業秘密を第三者に漏洩した場合は、「民事上の損害賠償責任」だけでなく、「刑事罰の対象」となります。
営業秘密の内容
不正競争防止法で保護される営業秘密は、
- 秘密として管理されている生産方法、販売方法
- その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報
- 公然と知られていないもの
と定義されています。
秘密保持義務違反
秘密保持義務違反による処分については、開示された秘密情報が守秘義務の対象となるかどうか、開示されたと評価できるのかどうかなどによって判断されます。
- 製品開発の技術情報を他社に漏洩する
- 取引先の情報を競合企業に提供する
- 内部の営業戦略を転職先で活用する
- 前職で作成した資料やデータを私物のUSBやクラウドに保存して持ち出す
- 新しい職場で、前職のノウハウやプロセスをそのまま転用する
- 業務中に知り得た取引先情報を営業資料として活用する
競業避止義務の要件とは?
自社の利益を守るために就業規則に競業他社への就職の禁止を定めたり、競合しないことを誓約書に含んでいる企業は少なくありません。
退職後は、職業選択の自由の観点から競業禁止義務は生じないとされますが、就業規則などで、必要かつ合理的な範囲で法的根拠を明示していれば、競業避止義務を認めるのが一般的になっています。
競業避止義務の要件
- 職務内容との関連性
在職中に企業の秘密情報を知り得る立場にあったこと - 正当な価値
競業を禁止するに値する企業の正当な利益があること - 合理的な範囲
競業禁止の期間・地域・対象について合理的制約であること - 代替措置
転職先を制限することに対する代替措置があること
- 入社時や昇進時に署名した雇用契約書や誓約書の内容
- 競業避止義務の期間・対象業種・地域などの具体的な範囲
- 違反した場合のペナルティ(損害賠償など)
転職後の「秘密保持義務」と「競業避止義務」
職務経験を活かして、在職中に身につけた知識やスキルを活用できなければ、転職先が制限されてしまいます。
秘密保持義務と競業避止義務を正しく理解して、必要な対策を講じることで、トラブルを避けて安心して次のキャリアに進むことができます。
転職者の秘密保持義務
転職者が秘密保持義務に違反して、転職先の企業へ秘密情報を開示・漏洩した場合、本人が契約違反を問われるだけでなく、転職先の企業も不法行為責任を問われ、競業行為の差し止め請求をされる可能性があります。
経験者採用では、コンプライアンスに関する誓約書の提出を求められることが多くなっています。
不合理な内容であれば、誓約書は無効となりますので、就業規則の規定とともに内容をよく確認して提出することをおすすめします。
違反した場合のリスク
- 民事責任
損害賠償請求(数百万円~数千万円の例も) - 刑事責任
不正競争防止法違反により、罰金刑や懲役刑の可能性も - 社会的信用の喪失
転職先企業にも不法行為の責任
退職後の競業避止義務
退職するときに「守秘義務の誓約書」を提出するよう求められることがあります。
在職中に得た企業秘密や顧客情報を漏洩したり、他社で使用しないことを誓約するものです。
違反すると退職金の減額・不支給、損害賠償請求、競業行為の差し止めなどが可能とされています。
どれだけ企業秘密に関わっていたか、職務や役割の違いで秘密情報に接する機会には個人差があり、ケースごとに判断されるのが実情です。
競業避止義務が有効とされる目安
- 期間が合理的であること
→1~2年程度が一般的 - 地理的範囲が合理的であること
→全国規模の制限は無効とされる可能性がある - 対象となる職務内容が限定的であること
→広範な制限は無効とされる可能性が高い - 対価の提供があること
→制限を課す代わりに一定の補償が支払われること
これらの条件を満たさない場合、競業避止義務が無効と判断される可能性があります。
- エンジニアが、競業他社に転職し、前職の技術を転用する
- 研究員が、自社の研究成果を活かして競業他社に就職する
- 営業職が、競合企業の営業職に転職し、取引先情報を使用する
その他の注意点
同業他社へ転職するときに、特に注意が必要となるのが「秘密保持義務」と「競業避止義務」ですが、スムーズに転職するために、他にも気をつけておきたいことがあります。
円満退職の進め方
同業他社への転職は、会社や上司、同僚との関係においてもセンシティブな問題です。
「なぜライバル企業に?」と、退職交渉が難航するケースも考えられます。
- 転職理由は「ネガティブではなくポジティブ」に伝える
- ライバル企業への転職であることはタイミングを見て丁寧に説明
- 引き継ぎは誠意をもって、丁寧に行う
- 最後まで感謝の姿勢を忘れない
企業文化の違い
同じ業界とはいえ、企業ごとに社風や働き方が異なります。新しい環境に適応するまでに時間がかかる可能性もあります。
前職での成功体験が新しい会社で通用しないこともあるので、柔軟な姿勢が求められます。
- 働き方(裁量、残業、在宅勤務の有無)
- コミュニケーションスタイル(トップダウン型かボトムアップ型か)
- 評価制度やキャリアパスの考え方
まとめ|同業他社の転職はリスクも知っておこう!
これまでの経験を活かしてさらなるステップアップや働きやすさを求めて、同業他社への転職を考えることは自然な流れです。
同業他社への転職には、次のような可能性があります。
- 即戦力として活躍できる
- キャリアアップのチャンスがある
- 業界特有の知識や人脈を活かせる
- 待遇アップが期待できる
企業の独自ノウハウや技術が競合他社で使用されることは利益を損なうことになりますが、転職先では、そのノウハウや技術に期待して採用することも多いといえるでしょう。
同業他社への転職は、経験や知識が活かせる大きなチャンスですが、法的・人間関係的なリスクがあることも事実です。
転職活動は次の点に注意して、慎重かつ誠実に進めましょう
- 秘密保持義務と競業避止義務の確認
- 機密情報を持ち出して、転職先で使用しない
- 円満退職を心掛ける
- 企業文化や社風の違いに注意する
前職の経験を活かして、よりよいキャリアを築くための参考になれば幸いです。
早期退職については、こちらの記事でご紹介します。

人事担当のセカンドキャリアについては、こちらの記事でご紹介します。

参考:内閣府、厚生労働省