企業が職場の環境を整えたり、働く人の安全と健康を確保することは、経営の持続性や従業員の満足度に直結する重要な要素です。これらの領域は、人事や総務が担当する業務と密接に関わっています。
労働安全衛生法では、事業場の業種や規模に応じた「安全衛生管理体制」について定めています。衛生管理者は、本社、工場、支店、営業所、店舗など一定規模以上の全業種で選任が義務付けられています。
事業場の規模によって、選任する衛生管理者の人数が決められていますので、人事総務部門にも衛生管理者の資格者がいることはさまざまなメリットがあります。
ここでは、衛生管理者の役割や意味、取得方法について詳しくご紹介します。
衛生管理者とは
衛生管理者は全業種で、労働者数が常時50人以上となる場合に選任が必要で、規模によって選任する人数が決められています。
衛生管理者の選任数
衛生管理者は200人を超えると複数の選任が必要になります。必置資格ですので、人事総務担当に資格者がいることは
事業場の規模 (常時使用する労働者数) | 衛生管理者の人数 |
---|---|
50人未満の場合 | 選任の義務なし |
50人~200人 | 1人 |
201人~500人 | 2人 |
501人~1,000人 | 3人 |
1,001人~2,000人 | 4人 |
2,001人~3,000人 | 5人 |
3,000人を超える場合 | 6人 |
衛生管理者の資格要件
衛生管理者は誰でもなれるわけではなく、業種によって資格要件があります。
業種 | 衛生管理者になれる人 |
---|---|
農林水産業、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、水道業、熱供給業、運送業、自動車整備業、機械修理業、医療業、清掃業 | ・第一種衛生管理者免許保持者 ・衛生工学衛生管理者免許保持者 ・医師 ・歯科医師 ・労働衛生コンサルタント ・その他 |
その他の業種 | 上記に加えて、第二種衛生管理者免許保持者 |
衛生管理者の職務
衛生管理者は、主に次のような業務を行います。
主な業務
- 健康に異常がある人の発見及び処置
- 作業環境の衛生上の調査
- 作業条件、施設等の衛生上の改善
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備
- 衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項
- 労働者の負傷及び疾病、死亡、欠勤などに関する統計の作成
- 衛生日誌の記載など記録の整備
巡視
衛生管理者は少なくても毎週1回は作業場等を巡回して、設備や作業方法、衛生状態に問題があるときには直ちに必要な措置を講じなければなりません。
衛生管理者の資格を取得する意味
人事総務担当が衛生管理者の資格を取得することは、企業として資格者を確保できるというだけでなく、担当者の業務やキャリアにもメリットがあります。
職場環境の改善と安全対策の強化
人事総務担当者が衛生管理者の資格を持つことで、企業の安全衛生管理体制が強化されます。現場の実態を把握しやすくなるので、より実効性のある対策ができるようになります。また、衛生管理者としての知識を活かして、労働環境の改善や安全対策の推進役を担うことができます。
法令遵守の徹底
労働安全衛生法に関する知識が深まり、企業が適切に法令を遵守できるようになります。労災防止に努めることで働きやすい職場を実現し、企業イメージの向上にも貢献できます。
従業員の健康管理の向上
従業員の健康管理にも役立ちます。職場の労働環境から過重労働やストレス、メンタルヘルスなど状況を観察し、必要な対策を行うことができます。
労災の防止
労働災害は企業にとって大きなリスクです。衛生管理者資格を持つ人事総務担当者が積極的にリスク管理を行うことで、労災の発生を未然に防ぐことができます。労災が発生してしまった場合には、直ちに改善することが可能になります。
経営層との連携強化
衛生管理者資格を持つことで、経営層への提言力が高まり、労働環境の改善について具体的な提案ができるようになります。企業全体の安全衛生戦略をより効果的に策定し、実行に移すことが可能になります。
従業員の信頼向上
従業員の健康や安全に対する意識が高まり、人事総務部門への信頼が向上します。特に、現場の声を反映した労働環境の改善が進むことで、従業員のモチベーションや定着率の向上につながります。
リスクの回避
労働災害や健康問題が発生すると、企業は補償費用や生産性の低下といったリスクを負うことになります。衛生管理者資格を持つ人事総務担当者が適切な管理を行うことで、リスク回避が期待できます。
キャリアアップや転職
衛生管理者資格を持つことで、キャリアの可能性が広がります。資格取得により、労働安全衛生の専門知識を持つ人材として認められ、評価アップや昇進のチャンスが増える可能性があります。
また、衛生管理者の資格は、業種を問わず必要とされるため、異業種への転職の際にも有利に働きます。特に第一種衛生管理者の資格を取得すれば、製造業や建設業など幅広い業界での活躍が可能になります。
安全衛生管理体制
企業は安全衛生に取り組むために、安全衛生管理体制を作り、適切に運営することが必要とされています。
選任 | 規模 | 業種 | 業務 | 資格 |
---|---|---|---|---|
統括安全衛生管理者 | 政令で定める規模 | ・林業、建設業、運送業等 ・製造業 ・その他 | 指揮・統括管理 | 事業場の統括管理者 |
安全衛生管理者 | 常時50人以上 | 屋外・工業的業種 | 安全に係る技術的事項 | 理科系・産業安全の実務経験等 |
衛生管理者 | 常時50人以上 | 全業種 | 衛生に係る技術的事項 | 衛生管理者免許保持者等 |
安全衛生推進者 | 常時10人以上50人未満 | 屋外・工業的業種 | 安全衛生に係る技術的事項 | 学歴・実務経験 |
衛生推進者 | 常時10人以上50人未満 | 非工業的業種 | 衛生に係る技術的事項 | 学歴・実務経験 |
衛生管理者の資格を取得するには
衛生管理者の資格を取得するには、試験に合格しなければなりません。資格には第一種と第二種がありますので、勤務先の業種や目的に合った資格を取得することが必要です。
衛生管理者免許の種類
第一種はすべての業種で衛生管理者として活動できるのに対し、第二種は特定の業種(主にオフィス業務など)に限定されます。
第一種衛生管理者免許
第一種衛生管理者は、すべての業種の事業場において衛生管理者となることができます。
第二種衛生管理者免許
第二種衛生管理者は、有害業務と関連の少ない情報通信業、金融・保険業、卸売・小売業など一定の業種の事業場においてのみ、衛生管理者となることができます。
衛生管理者の試験科目
衛生管理者試験は、第一種と第二種のほかに、第二種を受けた人が第一種を受ける「特例第一種」があり、それぞれ試験範囲が設定されています。
第一種衛生管理者
- 労働衛生
・有害業務に係るもの(10問)
・有害業務に係るもの以外のもの(7問) - 関係法令
・有害業務に係るもの(10問)
・有害業務に係るもの以外のもの(7問) - 労働生理(10問)
特例一種衛生管理者
- 労働衛生
有害業務に係るものに限る(10問) - 関係法令
有害業務に係るものに限る(10問)
第二種衛生管理者
- 労働衛生
有害業務に係るものを除く(10問) - 関係法令
有害業務に係るものを除く(10問) - 労働生理(10問)
衛生管理者の試験概要
衛生管理者の試験は公益財団法人 安全衛生技術試験協会が実施しています。
受験資格
学歴や実務経験などの受験資格があります。
試験日
試験会場によって異なります。(毎月実施)
試験時間
- 第一種:13:30~16:30
- 特定第一種:13:30~15:30
- 第二種:13:30~16:30
試験地
全国の試験会場(各地の安全衛生技術センター)
試験の詳細や最新情報は試験実施機関である安全衛生技術試験協会の公式サイトをご確認ください。
衛生管理者の勉強法
衛生管理者試験の合格率は40~50%ですので、しっかり準備すれば合格できる試験です。
学習の流れ
- 試験の出題範囲を把握する
- 試験日を確認して学習計画を立てる
- 教材を中心に学習する
- 暗記ポイントをおさえる
- 間違えた問題を重点的に復習する
教材選びと基礎固め
テキストを中心とした学習で合格を目指すことができます。
暗記ポイント
衛生管理者試験には、暗記が必要な問題が多くあります。単語カードやアプリを使って、確実に覚えるようにしましょう。
- 関係法令の重要な条文や数字
- 労働生理に関する基礎知識
まとめ
人事総務担当者が衛生管理者資格を取得することは、職場だけでなく、企業全体の安全衛生管理体制を強化することに役立ちます。キャリアにもメリットがありますので、安全衛生と担当業務に接点がある人は、資格取得を積極的に目指すとよいでしょう。
企業に関する多くの情報がネット上で簡単に入手できるようになりましたので、「働きやすい会社」「ホワイト企業」というイメージは、企業経営や採用活動に影響する重要なテーマです。
人事総務担当者が衛生管理者資格を取得して、企業の安全衛生を担うことで、働きやすい職場環境の実現に貢献しやすくなります。
人事・総務担当者のスキルアップ
★人事担当者に有利な資格
★総務担当者に有利な資格
★社会人のキャリアアップに役立つ資格
★転職に必要な英語力・TOEIC対策
★教育訓練給付制度について
参照:厚生労働省「安全・衛生」、公益財団法人 安全衛生技術試験協会公式サイト