社会保険労務士は、労務管理や労働・社会保険に関する専門家としての国家資格です。社会保険労務士になるには、社会保険労務士試験に合格して、全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿に「登録」を受けることが必要です。
資格試験に合格しても、所定の手続きを経て登録しなければ「社会保険労務士」として業務を行うことはできません。
ここでは、社会保険労務士として「登録」する場合、しない場合について、できること、できないことを具体的にご紹介していきます。
社会保険労務士の試験合格と資格取得
社会保険労務士の試験に合格することと、社会保険労務士の資格を取得することは同じ意味ではありません。
社会保険労務士とは
社会保険労務士は労働・社会保険に関する専門家として「書類等の作成代行」、「書類等の提出代行」、「個別労働関係紛争の解決手続の代理(特定社会保険労務士のみ)」、「労務管理や労働保険・社会保険に関する相談等」を行います。
社会保険労務士の登録
社会保険労務士の資格を取得するには、全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿に登録して、事務所の所在地や勤務地か居住地の都道府県社会保険労務士会に入会しなければなりません。
社労士の登録には「開業」と「勤務」、「その他等」があります。
社労士試験に合格した人は、社労士名簿に登録するための要件をひとつ満たしたことを意味します。
この段階では「試験合格者」ではありますが、登録を行わないと有資格者ではありません。登録には試験に合格するほかに、次のものが必要になります。
- 労働・社会保険に関する2年以上の実務経験
- 実務経験がない場合は事務指定講習の修了
- 登録費用(登録免許税、手数料、入会金・年会費)
社労士の登録については、こちらの記事で詳しくご紹介します。

社会保険労務士の違い
- 開業社会保険労務士
事務所を開設してクライアントから依頼を受けて業務を行う - 勤務社会保険労務士
企業等に所属して所属組織等において業務を行う - 特定社会保険労務士
労使間のトラブルを裁判外で解決するための代理人業務を行う - その他
社労士業務ではなく、執筆や講演などを中心に行う
社会保険労務士の登録をしない場合
社会保険労務士の登録をしない場合、社会保険労務士を名乗って業務をすることはできません。
では試験に合格したら必ず登録しなければならないのか?というと、そうではありません。私は人事部勤務で社労士試験に合格しましたが、登録はしていませんでした。
社労士の専門性を活かした働き方については、こちらの記事でご紹介します。

登録しないとできないこと
社労士には、登録しないと「できないこと」と登録しなくても「できること」とがあります。
企業や事務所に所属している場合には、「勤務」の区分で登録する人あるいは登録をしない人も少なくないと思います。
まずは、登録しないとできないことを理解しておく必要があるでしょう。
社会保険労務士を名乗る
社会保険労務士会に登録していなければ、名刺や肩書きに「社会保険労務士」と記載して、社会保険労務士を名乗ることはできません。
独占業務を行う
社会保険労務士には資格者しかできない業務があります。登録した社会保険労務士でなければ、それらの独占業務をすることはできないということで、登録しないまま行うと法律違反となります。
社会保険労務士の独占業務については「社会保険労務士法」の第2条1項の1号、2号に規定されています。
次の業務は例外を除いて社会保険労務士の資格者でなければ、営利を目的として行うことはできません。
- 申請書等の作成
労働・社会保険に関する法令に基づいて労働基準監督署やハローワーク、年金事務所等に提出する各種書類を作成すること - 提出代行
労働基準監督署やハローワーク、年金事務所等に書類を提出する手続きを代行すること - 事務代理
各種手続きや行政官庁等の調査・処分に関して代理人として対応すること - 紛争解決手続代理業務(特定社会保険労務士に限る)
- 帳簿類の作成
事務所において備え付けるべき帳簿書類(出勤・賃金台帳等)を作成すること
独立開業する
「開業」登録しなければ、社会保険労務士事務所を開設して、クライアントに業務を行うことはできません。
登録しなくてもできること
試験に合格しただけで登録しなければ意味がないということはありません。私もそうでしたが、社労士の専門性をキャリアに活用することができます。
専門知識を活用する
社労士試験を受ける人のなかには、人事や総務、あるいは社労士事務所などで働いている人も多いでしょう。
社労士の資格取得を奨励している企業もありますので、試験に合格したことは十分評価されます。
社労士の専門知識は実務で役立てることができますし、希望すればより専門性の高い業務や任される範囲が広がるなど具体的な効果も期待できます。
アピール材料にする
就活や転職活動をするときに、「社労士試験合格」という専門性をアピール材料として有利に選考を進めることができます。
人事労務の専門性は、企業の人事総務部門、人材業界、社労士法人などで高く評価されます。資格取得を奨励している企業では、資格手当や登録費負担などが期待できるかもしれません。
独占業務以外をする
独占業務でなければ、社労士の資格者ではなくても行うことができます。労働・社会保険に関する相談・指導は社会保険労務士の業務ですが、独占業務にはなっていません。
労務相談や人事コンサルティングなどの業務は資格者である必要はなく、登録しなくてもできるということになります。
社労士の登録をしない選択と再検討
それぞれのキャリアの方向性や状況に合わせて、社労士の登録をしないという選択はありだと思います。
ただし、登録していなければ社労士の資格者として活動することはできないということになります。
登録しない理由
社労士試験に合格した人のなかには、あえて登録はしないという選択をする人も少なくありません。いくつか考えられる理由があります。
費用の負担が大きい
社労士の登録をするには入会する社労士会によって費用は異なりますが、登録免許税と手数料、入会金・年会費がかかります。「勤務」での登録であっても年間数万円の費用が必要になってきます。
開業する予定がなかったり、資格者として業務を行うわけでない場合、登録しない選択をする人も多いといえます。
資格手当が出たり、会社が登録の費用負担をしてくれるなら登録する選択が増えるでしょう。
実務経験の不足
試験に合格しても、実務経験が不足しているため、登録要件を満たせないケースがあります。この場合は登録したくてもできないということになります。
事務指定講習を修了することで要件を満たすことはできますが、登録を急ぐ理由がなければ、すぐに登録する必要はないということになります。
キャリアプラン
社労士試験に合格しても、社労士事務所を開業するキャリアを目指さない人も多くいます。
資格者としてではなく、企業の人事部門などで専門性を活かしながらキャリアアップしていくことも選択肢の一つです。
登録しない場合の注意点
登録をしない場合でも、試験合格者として社労士の専門性を正しく活用するために注意しておきたい点があります。
名乗りに関する規制
「社会保険労務士」と名乗れないだけでなく、「社労士有資格者」などの肩書きを名刺や公式文書に記載することも避けた方がよいでしょう。
業務範囲の明確化
労務管理や社会保険手続きなどの業務をする場合、所属の業務として行うことは問題ありませんが、登録せずに副業などで外部向けに行うことはできません。
登録するタイミング
登録をしなかった場合でも、登録した方がよいタイミングがあります。そのときは改めて検討することをおすすめします。
独立を目指すとき
社労士事務所を開業し、独立したいと考えるようになったタイミングでは登録を検討しましょう。
転職市場でニーズがあるとき
求人企業や進みたいキャリアで社労士の資格者を求めている場合、登録しておくことでチャンスが広がります。
登録の手続き
社労士の登録は、開業する事務所や勤務先の所在地にある社労士会に申請書類を提出して、審査を受けます。
登録の流れ
- 入会する社会保険労務士会に申請書類を提出
- 都道府県社会保険労務士会:受付、審査
- 全国社会保険労務士会連合会:審査、社労士名簿・証票の作成
- 登録完了後に証票を発行
詳細は入会予定の都道府県社会保険労務士会にご確認ください。
登録する場合と登録しない場合の比較表
項目 | 登録する | 登録しない |
---|---|---|
名乗り(名刺・肩書) | できる | できない |
独占業務 | できる | できない |
独占業務以外 | できる | できる |
事務所の開業 | できる | できない |
費用負担 | ある | ない |
まとめ
社労士名簿に登録するということは、正式に「社会保険労務士」と名乗り、業務ができるようになるということです。
社労士試験に合格しても登録はしないという選択は一つの判断です。私は企業の人事部に所属していましたので、試験に合格したあとも組織の一員として担当業務を続けました。
社会保険労務士と名刺に書いたり、正式に名乗ることができなくても、業務で専門知識を活かしたり、評価アップにもつながりましたので、その時点では登録する必要性を感じていませんでした。
せっかく合格した社労士試験ですから、それぞれのキャリアに合わせて上手に活用することをおすすめします。
それは転職活動のときかもしれませんし、副業や独立のときかもしれません。必要なタイミングで登録を検討して、より大きなチャンスをつかむことに役立ててください。登録するかどうか迷っている人の参考になれば幸いです。
勤務社会保険労務士についてはこちらの記事でご紹介します。

社会保険労務士の副業についてはこちらの記事でご紹介します。

参照:厚生労働省「社会保険労務士制度」、全国社会保険労務士会連合会ウェブサイト