社会保険労務士は、クライアントから業務を受託してサービスを提供します。社労士とクライアントとの契約形態は、業務委託契約が一般的です。
業務ごとに「委託契約書」を作成して、報酬額を設定します。業務を受託する方法も報酬額も決められたものはなく、社労士事務所で独自に設定することができます。
自由に決められるのはいいですが、開業するときには何を基準に決めればよいか悩む人も多いのではないでしょうか。相場はあるものの私はかなり悩んでしまいました。
ここでは、社労士業務の委託契約と報酬についてご説明します。
社会保険労務士の業務委託
業務委託契約とは、クライアントから業務を委託され、その業務を行う契約です。社労士は、専門家として業務を受託して遂行します。
業務委託契約の内容
社労士事務所とクライアントの業務委託契約書は、主に次のような内容を記載して作成します。
委託業務の範囲
業務委託契約では、委託業務の範囲を明確に定める必要があります。
- 事務手続き(顧問契約に含む)
労働・社会保険に関する書類の作成および提出代行 - 相談業務(顧問契約に含む)
各種保険手続き、人事労務、労働トラブル、助成金申請、その他人事労務全般 - 給与計算
月次給与、賞与、住民税、年末調整 - 規程の作成・変更
就業規則、賃金規程、休業規程、その他の諸規程 - 助成金の申請支援
着手金、最低報酬額 - 行政調査の対応
労働局、労働基準監督署、年金事務所 - コンサルティング
人事制度、賃金制度、退職金制度 など
契約の期間
契約期間を定めることで、業務の継続性を確保します。
契約の解除条件
契約の解除については、条件を明確にしておくことが重要です。
- 理由
- 通知方法
- 通知時期
- 報酬の支払い
費用の負担
委託業務を遂行するうえで、かかる費用についての負担を決めておく必要があります。
出張旅費・日当の請求
委託業務を遂行するために遠距離の移動をした場合、移動費や宿泊料、日当などが請求できるかについて明確にしておきます。
報酬の支払い
報酬の支払いについて、条件を明記します。
- 請求方法
- 請求日
- 支払期日
- 支払方法
- 支払先
守秘義務
社労士業務を行うなかで、入手した企業の経営などに関する情報には守秘義務があり、契約書には条項を設けるのが一般的です。
個人情報の保護
業務上知り得た従業員の個人情報については、適切な管理をして、業務遂行以外の目的で利用することはできませんので、防止についての措置を記載します。
損害賠償責任
業務遂行におけるミスや情報漏洩など企業に損害を与えた場合の責任範囲についても取り決めを行います。
社労士の報酬
社労士の報酬は業務ごとに定めます。料金表を掲載している事務所サイトもありますので、だいたいの相場はネット上で参考情報として収集することができます。
社労士事務所が提示している報酬額は業務の内容や地域によっても幅がありますので、実際には、提供するサービスに妥当な料金を自分で決める必要があります。
報酬の形態
報酬の形態は、次のように設定している事務所が多いです。
- 月額顧問料
一定の業務を継続的に提供する場合に発生する固定報酬 - スポット報酬
特定の業務のみを請け負う場合の報酬 - 成功報酬
助成金申請などの成果に応じて支払われる報酬
顧問契約の報酬
顧問契約は一律ではなく、従業員の人数や業務範囲で設定されていることが多いです。顧問報酬の参考情報は以下のとおりです。
- 10人未満:1万~3万円/月
- 50人未満:3万~5万円/月
- 100人未満:5万~10万円/月
- 100人以上:10万円~/月
スポット業務の報酬
顧問契約に含まれないスポットで受ける業務は、それぞれに報酬を設定します。スポット業務の参考情報は以下のとおりです。
- 社会保険・労働保険の新規適用:3万~10万円
- 就業規則の作成・改定:10万~30万円
- 行政調査の立会:1時間あたり1万~3万円
- 助成金申請:成功報酬として受給額の10%~30%
業務委託契約の留意点
業務委託契約書は、クライアントとの良好な関係を築くためにもトラブルにならないよう明確にすることが重要です。
書面での契約締結
口頭契約では後々のトラブルの原因となるため、書面で契約内容を明確にすることが重要です。
業務範囲の明確化
「どこまでが社労士の業務で、どこからが依頼者の業務なのか」を明確にし、認識のズレを防ぎます。
報酬の支払い条件
支払時期や方法を明記し、報酬未払いのリスクを回避します。
解約時の条件
突然の契約解除による混乱を避けるため、解約時の手続きや違約金の有無を定めておきます。
社労士賠償責任保険
社労士が業務を遂行するうえで、ミスは許されませんが、万が一ということはあります。社労士事務所には、業務の性質上、損害賠償責任が発生する可能性があります。
業務上の万が一に備えられるのが「社会保険労務士賠償責任保険」です。
保険の概要
社労士賠償責任保険は、社労士業務上で生じた不慮の事故による損害を補償する保険です。例えば、手続きの過失により企業が金銭的損失を被った場合、その賠償責任を負うことになる可能性があります。こうしたリスクに備えるために、多くの社労士が保険に加入しています。
保険の必要性
社労士の業務は法律に定められた手続きが多いので、基本的にミスは許されません。しかし、セキュリティーや情報の行き違いなどにより、誤った手続きを行ってしまうリスクもゼロではありません。特に、以下のようなケースでは賠償責任が発生する可能性があります。
- 各種保険の適用・給付手続き
- 解雇予告手当の支払い
- 助成金申請の支援
補填の内容
社労士賠償責任保険の補償対象は加入する契約によって決まっています。一般的には次のような補償が含まれます。
- 損害賠償金の補償
被害者に支払う損害賠償金を補償。 - 訴訟費用の補償
訴訟に発展した場合の弁護士費用や裁判費用を補償。 - 和解金の補償
訴訟を回避するために和解した場合の費用を補償。
社労士は、企業の労務管理を担う重要な役割を果たしていますが、その業務にはリスクも伴います。社労士賠償責任保険に加入することで、万が一の損害賠償リスクに備え、社労士は安心して業務を遂行できるようになります。また、緊急の事態が発生した場合にも迅速に対応できます。
団体保険はコストパフォーマンスがよく、多くの社労士が利用しています。自分に合った保険を選び、リスク管理を徹底しましょう。
社労士事務所における個人情報保護
社労士は常に多くの個人情報を扱うことから社会保険労務士独自の個人情報保護制度として、全国社会保険労務士会連合会が「社会保険労務士個人情報保護事務所認証制度(SRP 認証制度)」を実施しています。
認証を受けた事務所にはSRPⅡマークと認証番号が付与され、社労士事務所の信頼性を示すものになります。
認証のメリット
- 信頼性の向上
クライアントからの信頼を得やすくなる。 - 業務効率の向上
内部管理体制が強化される。 - 競争力の強化
他の事務所との差別化が図れる。
SRPⅡ認証は、社労士業務の信用性を証明して、事務所の信頼性を高めることに役立ちます。事務所のブランド価値を向上させるために取得を検討するとよいでしょう。
まとめ
社労士とクライアントの業務委託契約は、双方の信頼関係を築くために必要なものです。業務範囲や報酬の取り決めについて、契約書には明確な内容を記載することが重要です。
実際に契約するときには、書面で詳細を確認して、双方が納得したうえで締結できれば、トラブルやリスクを減らすことができるでしょう。
参考:厚生労働省、全国社会保険労務士会連合会