社会保険労務士の試験は、合格率が低い難しい試験として知られています。
社会保険労務士になるには、まず試験に合格しなければなりませんので、試験の「難易度」は気になりますよね。
ここでは、社労士試験の難易度について、具体的なデータと傾向から解説していきます。
社会保険労務士試験はなぜ難しい?
社労士試験は、なぜ難しいと言われるのか?多くの人が持つであろう次のような疑問を解消しながら説明していきますね。
- 社労士試験が難しい理由とは?
- 実際にどのくらいの人が合格してるの?
- 合格にはどのくらい勉強時間が必要?
- 独学でも合格できる?
- 合格できる勉強方法とは?
難しい理由①|科目ごとに合格基準がある
まず、社労士試験の難易度には、試験制度が影響していると考えられます。
難易度の理由のひとつは「各科目ごとに合格基準点」があることです。
社労士試験は次の2つの形式で行われます。「科目ごとに基準点」がありますので、トータルで高得点でも1科目で失敗するとアウト。これが合格率が低くなる理由のひとつです。
- 選択式試験(午前:80分)
- 択一式試験(午後:210分)
基準点は毎年の試験結果から総合的に勘案して補正されます。社労士試験は毎年1回、8月の下旬に実施されます。
合格発表は11月頃ですので、補正で救われるか泣くことになるか受験者にとっては緊張の続く期間となります。
選択式試験
項目 | 満点 | 基準点 |
---|---|---|
総得点 | 40点中 | 28点以上 |
科目別 | 5点中 | 3点以上 |
各科目で与えられた文章に空欄があり、適切な語句を選んで埋める形式です。全8科目から1問ずつ出題され、合計40点満点です。
8科目中1科目でも基準点を下回ると不合格となります。
択一式試験
項目 | 満点 | 基準点 |
---|---|---|
総得点 | 70点中 | 49点以上 |
各科目 | 10点中 | 4点以上 |
各科目から10問が出題され、5つの選択肢の中から正しい答えを選ぶ形式です。全7科目で計70問、合計70点満点です。
総合得点の基準点を満たしても、科目別に基準点を超えなければ不合格になるため、ある程度バランスの取れた学習が必要になります。
なにより、210分という試験時間の長さに対応しなければなりません。
社会人になってから長時間集中して試験を受けるような機会がなかった人は多いでしょうから、慣れておく必要があります。
難しい理由②|科目数が多く、学習範囲が広い
社会保険労務士試験は、8科目10分野から出題され、午前に選択式(80分)、午後に択一式(210分)が行われます。
法律の条文やその解釈を問われる問題が増加傾向にあり、単なる暗記では対応できない部分があります。
試験科目 | 選択式 | 択一式 |
---|---|---|
労働基準法及び労働安全衛生法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
労働者災害補償保険法 (徴収法を含む) | 1問/5点 | 10問/10点 |
雇用保険法 (徴収法を含む) | 1問/5点 | 10問/10点 |
労務管理その他の労働に関する一般常識 社会保険に関する一般常識 | 1問/5点 1問/5点 | 10問/10点 |
健康保険法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
厚生年金保険法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
国民年金法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
合計 | 8問/40点 | 70問/70点 |
労働基準法では通達や判例からも出題されますので、条文の理解だけでなく、応用力が求められるようになっています。
社会保険では基本的な知識に加え、実務における具体的な運用方法や手続きまで理解しておく必要があります。
全体として応用問題が増加していて、法の背景や目的を理解しておくことが求められます。
複数の法律の関連性を問う問題や実務に基づく判断を必要とする問題など、単なる試験勉強だけではなく、条文の解釈や理解力が求められる問題が増えています。
難しい理由③|法改正や白書等への対応
労働・社会保険に関する法律は、社会の変化に伴い頻繁に改正されてきました。そのため、試験直前まで最新の情報を学び続けなければなりません。
多くの人は、法改正や白書、統計などの最新情報を直前に詰め込むことになり、失敗するケースも少なくありません。
私もやはり直前に対応しました。ハイスコアは狙えませんが、対策さえ間違わなければ基準点をクリアすることはできると思います。
新しいテーマは出題される可能性が高いので、常にアンテナを張っておく必要があります。
テキストや過去問だけでは収集できない情報もありますので、模試などを上手に活用することをおすすめします。
常に最新情報を学び続けるのは、勉強期間が長くなればなるほど負担が大きくなることでもあります。できるだけ短期間で合格できるよう計画した方がよいでしょう。
社労士試験の合格率推移
では、どのくらいの人が合格しているのか?合格データを見てみましょう。
社労士試験の合格率はここ10年で見ても6~7%です。やはり難易度は高く、簡単には合格できない試験といえそうです。
年度 | 受験者数 (人) | 合格者数 (人) | 合格率 (%) |
---|---|---|---|
令和6年度 | 43,174 | 2,974 | 6.9 |
令和5年度 | 42,741 | 2,720 | 6.4 |
令和4年度 | 40,633 | 2,134 | 5.3 |
令和3年度 | 37,306 | 2,937 | 7.9 |
令和2年度 | 34,845 | 2,237 | 6.4 |
令和元年度 | 38,428 | 2,525 | 6.6 |
平成30年度 | 38,427 | 2,413 | 6.3 |
平成29年度 | 38,685 | 2,613 | 6.8 |
平成28年度 | 39,972 | 1,770 | 4.4 |
平成27年度 | 40,712 | 1,051 | 2.6 |
(厚生労働省「社会保険労務士試験の結果について」をもとに作成)
合格率の低さは、試験範囲の広さや難しい問題の出題が増えていることが理由といえます。
また、選択式と択一式の両方で基準点をクリアする必要があるため、苦手科目があると全体での合格が難しくなります。
必要な勉強時間は?
社労士試験に合格するためには、一般的に800~1000時間程度の学習時間が必要とされています。
この長時間の学習が、働きながら受験する社会人にとって大きな負担となります。
学習期間が長いため、モチベーションの維持が難しく、途中で挫折してしまう人もいるでしょう。
学習期間は確保できる勉強時間によって変わってきますが、1~3年くらいで合格できるのが望ましいといえます。
タイプ | 勉強時間 | 学習期間 |
---|---|---|
初学者 | 1,000時間 | 2~3年 |
実務経験者(社会人) | 800時間 | 12~18ヵ月 |
再受験・学習経験者 | 500~800時間 | 6~8ヵ月 |
条文を覚えただけでは解けない応用的な問題が増える傾向にあります。初学者は用語に慣れるまでの期間も加味しておく必要があるでしょう。
独学でも合格できる?
独学(基本テキストと過去問題集)でも合格を目指すことはできます。
ただし、効率よく学習できなければ短期合格は難しいかもしれません。教材選び+学習計画+継続力が重要です。
独学で陥りやすい失敗は、事前に対策しておきましょう。
- テキストを熟読・覚えるだけでは不十分
→インプット後はアウトプット重視の勉強にシフトする必要があります。 - 苦手科目が不明確
→苦手分野や弱点を把握しないと基準点不足のリスクが高まります。 - 模試を受けない
→本番の形式に慣れず当日実力を発揮できません。 - 白書・白書・法改正の対策を軽視する
→多くの人が不十分な対策で後悔する科目です。 - 学習計画がざっくりしすぎている
→モチベーションに依存しすぎるのは危険です。
独学であっても本試験前には、模試を活用するなどして本番に備えることをおすすめします。
社会保険労務士試験の難関対策
社労士試験で合格を目指すには、科目ごとに出題傾向を理解して、効率的に学習を進めることがポイントになります。
労働基準法及び労働安全衛生法
労働基準法は労働者の基本的な権利を規定しているため、社労士試験の基礎ともいえる重要科目です。一方で例外も多く、法の解釈が難しい分野でもあります。
条文の正確な理解に加え、例外規定や通達までしっかり覚えることが重要です。過去問を通じて出題傾向を掴むことと効果的です。
労災保険法
労災保険の給付内容や要件に関する詳細な知識が求められる分野です。
支給要件や具体的な事例を用いた計算問題があるため、数字に関しても慣れておくことが必要になります。
雇用保険法
雇用保険法からは失業給付からの出題が多く、保険料に関しては数字の問題も出題されます。
基本手当の支給条件と給付額を体系的に覚えるとともに、改正が頻繁に行われるため最新情報に注意しましょう。
健康保険法
健康保険法は保険給付からの出題が中心ですが、問題が難化傾向にあるので、全般的に学習することが必要になっています。
法改正からの出題が多いので、改正点をしっかり押さえておくことで得点につなげることができます。
厚生年金保険法・国民年金法
厚生年金保険法と国民年金法を合わせて「年金法」では膨大な知識が求められます。
支給額についての問題もあるため、社労士試験科目のなかでも苦手意識を持つ人が多い科目となっているようです。
年金の種類や受給資格、保険料を正確に覚える必要があります。全体像をつかんでから改正点や経過措置などを学ぶと理解が深まります。
労働一般常識・社会保険一般常識
「労務管理その他の労働に関する一般常識」と「社会保険に関する一般常識」はさまざまな分野から出題されるので、対策が難しく、基準点を下回るケースが多い科目です。
最新の法改正や白書、労働統計データ等を確認し、広く浅く知識を身につけることが必要になります。
過去問や模試を通じて、頻出テーマを重点的に押さえると効率的です。最新の法改正からは出題される可能性が高いので、出題されそうな内容はしっかり覚えておきましょう
まとめ|社労士試験は難しいが対策次第で短期合格できる!
社労士試験の難易度が高い理由は、合格基準点、広範な試験範囲、長期間の学習時間、そして応用力を問う問題が増えていることにあるといえるでしょう。
私は好きな科目で思うように得点が伸びず挫折感がありましたが、割り切って得点源となる科目に力を入れました。
学習量は多いですが、科目ごとの特徴を理解して、効率的に学習を進めれば短期合格できる試験です。
人によって得意不得意科目は違うと思いますが、基本テキストと過去問題集を繰り返すことが重要です。
これから社労士試験を受験する人や試験勉強をがんばっている人にとって、少しでも参考になれば幸いです。
社会人の自習室活用については、こちらの記事でご紹介します。

参照:厚生労働省「社会保険労務士試験の結果について」、社会保険労務士試験オフィシャルサイト