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社会保険労務士の給与計算について社会保険業務との関係は?

円マークと青空 社労士ナビ

社会保険労務士の業務のうち、給与計算と社会保険などの手続きは、多くの事務所が請け負っています。社会保険手続きは社労士の独占業務ですが、給与計算は独占業務ではありませんので、税理士やアウトソーシング会社などでも業務を行っています。

事務所の方向性によると思いますが、なかには給与計算の業務は最初から引き受けないことにしている社労士事務所もあります。

開業したてでは考えどころだと思います。私も悩みましたが、営業活動をしているとお声がかかりやすいのが給与計算の業務でもあります。他の業務はあまり知られていないということもあると思います。

給与計算と社会保険手続きは何かと関連のある業務です。ここでは、それぞれの関係性と社労士が給与計算を行うメリット・デメリットについてご説明します。

給与計算と社会保険業務

給与計算と社会保険手続きは、従業員の生活に大きく影響する業務です。適切かつ正確に行うことが求められます。

給与計算と社会保険手続き

給与計算は、従業員の給与形態や勤務状況に基づき、支払う給与額を算出する業務です。この計算には、基本給、各種手当、残業代、控除額(所得税、住民税、社会保険料など)が含まれます。

社会保険手続きは、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険などの適用や資格喪失、保険料の納付、給付申請などを管理する業務です。

給与計算と社会保険手続きは、次のような点で密接に関係しています。

給与計算と社会保険の標準報酬月額

健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料など社会保険料は法定控除として、給与から差し引かれます。

控除額は社会保険の加入状況や給与額にもとづいて計算されますので、給与に変更があると、社会保険の標準報酬月額が変更になり、控除額も変更になる可能性があります。

社労士が給与計算を行っていれば、社会保険の標準報酬月額の管理がしやすくなります。

給与計算と社会保険の算定基礎届

社会保険の算定基礎届は、標準報酬月額を見直す手続きです。毎年、4月から6月に支給された給与をもとに行われます。

社労士が給与計算を行っていれば、使っている給与計算ソフトで簡単で正確に処理しやすくなります。

社会保険による給与額の変動

社員が育児休業や傷病休業を取得した場合、支給する給与が変動することがあります。社労士が給与計算を行っていれば、保険給付の申請と連動して、適正な給与を支給しやすくなります。

給与計算と社会保険手続きの具体例

給与計算と社会保険手続きの実務において、実際に関係する例をご紹介します。

新入社員の入社手続き

新たに社員が入社した場合、健康保険・厚生年金・雇用保険の加入手続きを行います。同時に、給与計算のシステムに新入社員の情報を登録し、適正な控除額を設定します。

退職する社員の手続き

社員が退職するときには、社会保険の資格喪失手続きを行うとともに、退職時の最終給与を適切に処理します。期日通りに残業代などの精算を行います。

育児休業や傷病休業の対応

社員が育児や傷病などで休業するときには、給付申請を行います。申請手続きと連動して、休業中の給与に変動があれば情報を変更して、適切な給与を支給することにつなげます。

賞与計算と社会保険料

賞与が支給されるときには、賞与にかかる社会保険料の計算が必要です。賞与支給のタイミングによっては社会保険料が変動するので、適切な計算と手続きが求められます。

社労士が給与計算を行うメリット

給与計算は社労士の独占業務ではないにもかかわらず、多くの事務所で給与計算を行っているのはなぜでしょうか。

社労士が給与計算を行うメリットには次のようなことがあります。

企業との継続的な関係構築

社会保険の手続きは、社員の人数によっては毎月発生するとは限りませんが、給与計算は毎月必ず行う業務です。社員が少ない企業とも毎月やり取りがあり、契約が継続されやすくなります。

また、企業の労務管理上の課題を把握しやすくなり、労務相談や就業規則の作成、社会保険手続きなどの業務を引き受けたり、顧問契約に移行するチャンスが増えます。

収益の安定化

給与計算は毎月発生する業務ですので、継続できれば安定した収益源となります。顧問契約と組み合わせることで、定期的な報酬を得ることができ、事務所の経営基盤の強化につながります。

労務管理の専門家としての付加価値提供

給与計算は単なる処理ではなく、労働基準法や社会保険制度と密接に関係しています。社労士は専門知識を活かして、適法な給与計算を行い、最新の法改正に対応したアドバイスを提供できることも強みになります。

他の社労士との差別化

企業の成長には、適切な労務管理が不可欠です。小さい規模のときから給与計算を通じて企業との関係を深め、企業の成長とともに契約を拡大していける可能性があります。

クライアントの負担軽減

企業にとって、給与計算は時間と手間のかかる業務です。アウトソースも進んでいますので、社会保険手続きに加えて、社労士が給与計算を請け負うことで、クライアント企業の生産性向上に貢献できます。

社労士が給与計算を行うデメリット

給与計算は行わないことにしている事務所があるように、デメリットもあります。

競争が激しい

給与計算は社労士だけでなく、他の事業者がサービスを提供しているので、価格競争が発生しやすい業務です。給与計算だけでは差別化が難しく、価格競争に巻き込まれる可能性があります。

労力と時間の負担

給与計算は毎月決まった期日までに完了させる必要があり、繁忙期には業務負担が増大します。特に、月末から月初にかけての業務量が多くなり、他の業務との両立が難しくなる場合があります。

人為的ミスのリスク

給与計算は高い正確性が求められる業務であり、計算ミスや入力ミスが発生すると、企業と働く人の信頼を損なう可能性があります。税金や保険料のミスは重大なトラブルにつながりますので、慎重な処理が必要になります。

システム投資の必要性

給与計算を効率的に行うためには、専用の給与計算ソフトやクラウドサービスの導入が欠かせません。これには一定のコストがかかり、操作方法の習得や定期的なシステム更新が必要になります。

クライアントのニーズ

競争が激しく、差別化が難しい給与計算は、社会保険業務と併せて担当することで、クライアントのニーズに応えやすくなります。

法令遵守の徹底

労働や社会保険に関する法律は頻繁に改正されますので、最新の法改正を把握し、適切に対応しなければなりません。社労士が担当することで、適正な処理ができるようになり、未払い残業や社会保険料の誤徴収といったトラブルを防ぐことができます。

事務作業の効率化

給与計算と社会保険手続きは複雑で時間がかかる業務です。社労士に担当することで、企業の労務担当者は本来の業務に集中でき、業務の効率化が図れます。

社員の安心感の向上

給与や社会保険は働く人の生活に直結するものですので、計算ミスや手続きの遅延は大きな問題になります。社労士が適切に対応することで、社員は安心して働くことができ、企業の信頼性向上にもつながります。

労務リスクの軽減

社会保険の手続きを適切に行わなければ、企業は罰則や追徴金の対象となる可能性があります。また、社員とのトラブルが発生するリスクもあります。社労士が適正な対応を行うことで、リスクを軽減できます。

付加価値の提供

社労士が給与計算を行うことには、安定した収益や企業との関係強化といったメリットがある一方で、価格競争や業務負担の増加といったデメリットも存在します。

そのため、単なる計算処理にとどまらず、労務管理の専門家としての知識を活かした付加価値の提供が重要です。

労務コンサルティングをセットにしたサービスを提供したり、クラウドシステムを活用して業務効率を向上させる、企業の成長に合わせた労務アドバイスを行うなど工夫が必要になるでしょう。

給与計算は社労士の独占業務ではありませんが、適切な戦略を持つことで、事務所の安定経営とクライアントの満足度向上を実現できる可能性が十分にあります。

まとめ

従業員がいる企業にとって、給与計算と社会保険手続きは、必ず行わなければならない業務です。適切に対応することが、そのまま働く人の生活を支えることにつながります。

それらの業務を社労士が担当することで、企業は法令遵守、業務の効率化、従業員の安心感の向上、労務リスクの軽減といったメリットが得られます。社労士は労務管理のサポートにとどまらず、企業の健全な経営を支える重要な役割として存在感を示すことができます。

給与計算は処理や作業の難易度以上に重い責任のある業務で、行うかどうかは事務所運営にも大きく影響します。社労士の営業活動の参考になれば幸いです。