社会保険労務士は、人事労務の専門家としての国家資格です。企業の成長や働く人の就業環境を支援する役割があります。
一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、人事系ではメジャー資格です。
「社会保険労務士」になるには、試験に合格して、社労士名簿の登録を受けることが必要です。
ここでは、社会保険労務士とはどのような資格なのか、業務内容から試験の概要、働き方、将来性について、できるだけわかりやすく解説していきます。
社会保険労務士は何ができる資格?
社会保険労務士は、1968年に制定された「社会保険労務士法」によって制度化された国家資格です。
この「社会保険労務士法」には、目的が次のように定められています。
(目的)
第一条
この法律は、社会保険労務士の制度を定めて、その業務の適正を図り、もつて労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする。
e-Gov法令検索「社会保険労務士法」
社会保険労務士の役割は、企業運営をサポートして働く人の福祉を守り、双方にとって最適な環境を整えることだといえますね。
「社会保険労務士法」には、業務についての規定もあり、簡単にまとめると次のようになります。
- 提出代行・事務代理
- 規程・帳簿作成
- 相談・指導(コンサルティング)
- あっせん代理
具体的には、労働・社会保険諸法令に基づく、書類や申請書等を作成して提出を代行したり、帳簿や就業規則などの作成を行います。
また、人事・労務のコンサルティング業務をすることもできます。
あっせん代理は社会保険労務士のなかでも、試験に合格した「特定社会保険労務士」だけが行える業務です。
それぞれ順番に説明していきますね。
提出代行・事務代理
社会保険労務士は、従業員の採用から退職まで、また会社設立から解散までに必要な労働・社会保険に係る諸手続きを企業に代わって行うことができます。
社労士が手続きを代行することで、企業の業務負担を軽減して、効率的な事業運営に貢献できます。
また、個人向けには年金裁定請求手続きや労災保険の給付申請手続きなどの事務を行います。
- 労働保険、社会保険の新規加入と脱退および被保険者資格の取得・喪失等の手続き
- 健康保険・厚生年金保険の算定基礎届けおよび月額変更届
- 労働保険の年度更新手続き
- 健康保険の傷病手当金や出産手当金などの給付申請手続き
- 労災保険の休業(補償)給付や第三者行為災害の給付手続き
- 死傷病報告等の各種報告書の作成と手続き
- 解雇予告除外認定申請手続き
- 年金裁定請求手続き
- 審査請求、異議申立、再審査請求などの申請手続き
- 各種助成金申請手続き
- 労働者派遣事業などの許可申請手続き
- 求人申込みの事務代理
規程・帳簿作成
社会保険労務士は、諸規程及び備え付け帳簿等の作成を行います。
企業のニーズや法改正に応じて適切に規程や帳簿を作成することで、トラブルの防止や働きやすい職場環境の実現をサポートします。
- 就業規則、賃金規程、退職金規程等の諸規程および36協定などの各種労使協定の作成・提出
- 社員名簿、賃金台帳等の作成
相談・指導(コンサルティング)
社会保険労務士は、人事・労務管理の問題について相談を受け、企業の実情に応じて適切なアドバイスを行います。
例えば、「賃金・人事制度・退職金制度の設計・運用」、「採用・退職・解雇等の雇用管理」、「労働時間管理(休日・休暇を含む)」、「福利厚生、安全衛生、教育訓練、各種年金」などに関する相談に対応します。
- 雇用管理
- 就業管理
- 人事管理
- 賃金管理
- 安全衛生
- 教育訓練
- 福利厚生
あっせん代理
特定社会保険労務士に限り、紛争解決手続代理業務(あっせん代理業務)を行うことができます。
紛争解決手続代理業務試験に合格して、その付記を受けた社会保険労務士が特定社会保険労務士として活動できます。
- 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第14条第1項の調停の手続きにおける紛争当事者の代理
- 個別労働関係紛争に関するあっせんの手続きにおける紛争当事者の代理
- 個別労働関係紛争(紛争目的価額120万円以下のものに限る)に関する民間紛争解決手続で、厚生労働大臣が指定するもの(民間の紛争解決事業者)が行うものにおける紛争事業者の代理
特定社会保険労務士については、こちらの記事でご紹介します。

社会保険労務士はどうやってなるの?
社会保険労務士の資格を取得するには、社会保険労務士試験に合格して、「社会保険労務士」として全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿に登録を受ける必要があります。
具体的には、次のステップで正式に「社会保険労務士」になれます。
- 社会保険労務士試験に合格する
- 社会保険労務士の登録要件を満たす
- 社労士会に登録申請をする
- 登録完了後に、証票を受け取る
社労士試験の概要
社会保険労務士になるためには、まず社会保険労務士試験に合格しなければなりません。
受験資格
社会保険労務士試験の受験資格は、大きく①学歴②実務経験③厚生労働大臣の認めた国家試験合格の3つに分けられ、この中のいずれか1つを満たしている必要があります。
また申込みをするときには、受験資格があることを明らかにすることができる書面『受験資格証明書』を提出しなければなりません。
詳細は社会保険労務士試験オフィシャルサイトで確認することができます。
学歴による受験資格は次のとおりです。
- 大学、短期大学卒業
- 大学(短期大学を除く)で62単位以上の修得者
- 専門学校卒業
- 厚生労働大臣が認めた学校卒業
- 高等専門学校(5年制)
- 各種学校等卒業
- その他
試験日
試験は毎年8月に実施されます。(年1回)
試験科目
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用保険法
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
- 労務管理その他の労働及び社会保険に関する一般常識
合格率
約6~7%
社会保険労務士はどんな人がなってるの?
社労士試験に合格した人と社労士登録をしている人の構成は次のようになっています。
試験合格者の年齢別割合
合格者の年齢層別の割合は、6割を30~40歳代が占めています。
社会人としてキャリアを積みながら目指す人が多い資格だといえます。
年齢 | 割合(%) |
---|---|
20歳代以下 | 11.8 |
30歳代 | 32.5 |
40歳代 | 28.9 |
50歳代 | 19.2 |
60歳代以上 | 7.6 |
(厚生労働省「第56回社会保険労務士試験の合格者発表」より)
社労士登録者の構成
社労士の男女比は、おおよそ2:1になっています。
性別 | 割合(%) |
---|---|
男性 | 64.2 |
女性 | 35.1 |
その他 | 0.7 |
社労士の年齢構成は、「50~59歳」が最も高く、次いで「40~49歳」になっています。
思ったより平均年齢が高いと感じました。私もそうでしたが、社労士登録はしないで企業等に勤務している試験合格者も多いからでしょうね。
年齢 | 割合(%) |
---|---|
20~29歳 | 0.4 |
30~39歳 | 6.6 |
40~49歳 | 25.1 |
50~59歳 | 32.4 |
60~69歳 | 23.1 |
70歳以上 | 12.4 |
登録区分別に見ると、女性の割合は「勤務等」で高くなっています。
種別 | 総数 (人) | 男性 (%) | 女性 (%) | その他 (%) |
---|---|---|---|---|
開業 | 13,061 | 69.1 | 30.1 | 0.8 |
法人の社員 | 2,190 | 67.2 | 32.3 | 0.5 |
勤務等 | 10,157 | 57.3 | 42.0 | 0.7 |
総数 | 25,408 | 64.2 | 35.1 | 0.7 |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
社会保険労務士はどこで働いているの?
社会保険労務士の働き方は多様化しています。社労士登録をしている人だけでなく、試験合格者の働き方も含んでご紹介します。
ひとつだけということではなく、キャリアの過程で変わったり、複数になるケースもあるでしょう。
社労士事務所を開業する
社労士事務所を開業して独立する働き方です。
資格を目指す人がイメージしやすいスタイルだといえます。まずは個人でスタートするケースがほとんどです。
自分の事務所を構え、企業や個人などクライアントと直接契約を結びます。働き方や収入は自分次第です。
- 事務所を開業して社労士の業務をする
- 収入は自分次第
- 事務所を大きくするチャンスも廃業のリスクもある
社労士法人の代表になる
個人で開業した事務所が大きくなって有資格者やスタッフを雇用して代表になるスタイルです。
大きな法人になれば実務はあまりすることがなくなり、経営的な立場で事務所を運営することになります。
- 経営的な立場で事務所を運営する
- 顧問先や職員を抱えて収益を出す
- 業界や経営者とのつきあいも仕事
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社労士事務所・法人の職員になる
社労士事務所や法人の職員として勤務するスタイルです。
試験合格者が社労士として活動するには実務経験が必要になりますので、実務経験がない人は事務所などで経験を積むことになります。
実務経験がなくても事務指定講習を修了すれば、「社会保険労務士」の登録をして資格者として活動できるようになります。
- 所属する事務所や法人の一員として仕事をする
- 収入は給与として支給される
- 独立を目指したり、法人内でキャリアアップの可能性がある
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法律事務所・コンサル会社に勤務する
法律事務所やコンサルティング会社に所属して、スペシャリストになるスタイルです。
社労士の業務分野に特化した領域を担当します。
- 法律事務所やコンサル会社に所属して業務を担当する
- 収入は勤務先との契約による
- チームで対応することも多い
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一般企業の人事総務に勤務する
企業の人事総務などの部門に所属して勤務社労士として働くスタイルです。
資格がなければできない業務ではありませんが、社内でステップアップしたり、転職の場面で専門知識があることの証明に役立ちます。
- 企業の社員として勤務する
- 給与として安定した収入がある
- 幅広く業務を経験できるチャンスがある
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フリーランスになる
フリーランスとして働くこともできます。
自分の得意分野に特化したサービスを提供するスタイルです。コンサルタントや講師などを中心に活動する人もいます。
- 個人でクライアントと契約する
- 収入には幅がある
- 独自のキャリアを築くことができる
社会保険労務士の年収はどのくらい?
社労士の収入は、働き方によって幅があります。開業社労士、勤務社労士の収入は次のようになっています。
社労士の収入
社労士事務所、社労士法人の年間売上は、次の表のようになっています。平均は1650万円ほどです。
事務所の収入 | 割合(%) |
---|---|
収入なし | 6.3 |
500万円未満 | 36.5 |
500万円以上1000万円未満 | 17.7 |
1000万円以上2000万円未満 | 14.5 |
2000万円以上3000万円未満 | 6.7 |
3000万円以上5000万円未満 | 6.0 |
5000万円以上1億円未満 | 4.4 |
1億円以上 | 2.2 |
開業社労士の個人所得は、次の表のようになっています。平均すると440万円ほどです。
開業社労士の所得 | 割合(%) |
---|---|
収入なし | 16.2 |
300万円未満 | 35.8 |
300万円以上600万円未満 | 19.4 |
600万円以上900万円未満 | 10.8 |
900万円以上1200万円未満 | 5.2 |
1200万円以上1500万円未満 | 2.0 |
1500万円以上2000万円未満 | 1.8 |
2000万円以上 | 2.8 |
勤務社労士の年収は次の表のようになります。
「300万円以上600万円未満」の割合が最も高く、次いで「600万円以上900万円未満」の割合が高くなっています。
勤務社労士の年収 | 割合(%) |
---|---|
収入なし | 3.5 |
300万円未満 | 16.8 |
300万円以上600万円未満 | 38.0 |
600万円以上900万円未満 | 25.0 |
900万円以上1200万円未満 | 10.7 |
1200万円以上1500万円未満 | 3.4 |
1500万円以上2000万円未満 | 1.5 |
2000万円以上 | 0.9 |
(全国社会保険労務士会連合会「2024年度社労士実態調査」より)
社会保険労務士の将来性は?
社労士の仕事は企業の成長をサポートすることで、働く人にも貢献できるという大きなやりがいがあります。
そのためには、社会の変化に合わせて常に最新の知識をアップデートしていくことが必要になります。
これからの可能性
少子高齢化や働き方の多様化が進むなか、労働問題を未然に防ぎ、働きやすい環境づくりを支援する社労士の役割はますます重要になるでしょう。
また、就業環境の変化に伴うニーズも高まると考えられます。
期待される役割
人事担当が不足しているスタートアップなどの企業において適切な労務管理体制を整えることは、社員の定着率アップ、生産性の向上などにつながり、企業の成長に貢献できます。
また日々の労働問題において適切なアドバイスを行い、トラブルを最小限に抑えることに社労士の専門知識が役立ちます。
労働環境の変化
リモートワークやテレワークの普及で多様な働き方ができるようになっています。
今後も、雇用や労務管理の複雑化は進むでしょう。社労士の専門知識はこれらの対応に役立てることができます。
デジタル化の進展
今後は、IT技術やAIを活用した効率的な労務管理が主流となるでしょう。
社労士もこれらの技術を活用し、より高度なサービスを提供することが期待されます。
まとめ|社会保険労務士は人事労務の専門家!
社会保険労務士は、企業の「人」に関して幅広く対応できる専門家です。
業務内容や働き方は多様化していますので、自分次第でさまざまなキャリアを築ける可能性があります。
人事部勤務の私は転職を考え始めたことから社労士を目指し、試験合格後も人事部で専門性を活かして働きました。
その後、開業、フリーランスと至るわけですが、資格を取得したことでキャリアはもちろん、人生も変わったのだと思います。
キャリアに行き詰まりを感じたり、組織で働くことが向いているわけではなかったとしても、独立など考えたこともなかったですわけですから。
社労士に興味を持った人や資格を目指している人にとって、ここで紹介した情報が新たな一歩を踏み出す参考になれば幸いです。
社労士に向いている人については、こちらの記事でご紹介します。

社労士試験は年に1回しかありませんので、短期合格を目指す人は計画的に学習することをおすすめします。
参照:厚生労働省「社会保険労務士制度」、社会保険労務士試験オフィシャルサイト、全国社会保険労務士会連合会公式サイト