社会保険労務士として個人でスタートした事業が、職員を雇用するようになり、事務所が大きくなると、経営者としての役割が大きくなります。
事務所から社会保険労務士法人を設立することもできます。法人化することで、大きな案件を受注しやすくなるというメリットがあります。
ここでは、社労士法人の経営者としてのキャリアについて、法人化のメリットや法人経営者に求められる適性、スキル、マインドをご紹介します。
経営者としての社会保険労務士
社会保険労務士法人は、社労士業務を行うために社労士が設立する法人です。
定款の作成、認証、出資金の払込み、その他設立に必要な手続が終了したのち、その主たる事務所の所在地において設立の登記をして成立します。
社労士法人は、複数の事業所を設けることができます。
社労士が法人を設立するには、安定的に組織を運営すること、経営者としての視点を磨くことが求められます。
社会保険労務士法人のメリット
法人は社労士1人からでも設立できますので、規模が大きいとは限りませんが、職員が数十人という大きな法人もあります。
信頼性の向上
法人化することで、個人事務所に比べてクライアントからの信頼性が向上します。
大手企業との契約においては、法人であることが条件となる場合もあります。
事業規模の拡大
多くの社労士やスタッフを採用して、幅広く業務に対応することができるようになり、事業の可能性も広がります。
また、複数の社労士が集まることで、サービスの質を高めることができます。
責任分担の明確化
規模の大きい法人では、業務をチームで分担できるので、経営者が業務のすべてを担う必要がなくなります。
適切な役割分担をすることで、業務を効率化することができます。
大きな法人になれば、実務は基本的に職員の社労士が担当しているところが多くなります。
後継者問題の解消
個人事務所であれば、社労士が引退するときに、事務所の引継ぎを行わなければなりません。顧問先企業の負担になるケースも出てくる可能性があります。
法人化していれば、代表社員が引退しても、同じ法人で引き続き顧問先企業に対応することができます。
社労士法人の成長に必要なこと
社労士法人の成長に必要となることは、他の起業家や経営者が行う事業とそう変わるわけではありません。
本業の専門性だけでなく、事業計画や営業戦略が非常に重要になってきます。
明確なビジョンと方向性
法人の成長には、明確な経営ビジョンが必要です。どのようなサービスを提供し、どの市場で競争するのかを明確にすることで、組織を正しい方向へ導くことができます。
強固なネットワークの構築
他の士業や企業との連携を強化することで、新たなクライアントの獲得やサービスの拡充が可能になります。ビジネスパートナーとの関係を深めることも重要です。
最新技術の活用
労務管理にも新しい技術が導入されるようになっています。クラウドやAIなどのトレンドにも気を配りながら、クライアントへ付加価値を提供することが重要です。
迅速な対応
労働・社会保険に関する法律や制度は頻繁に改正されるので、常に最新情報をキャッチアップしていく必要があります。
適切な対応を取ることで、クライアントとの長期的な信頼関係が構築されます。
法人経営者に求められる適性
社労士法人の経営者となることを目指す場合、社労士としての専門性の高さだけではなく、経営者として適性があることが望ましいといえます。
社労士として個人の事務所運営がうまくいっていても、事業を拡大して、経営者としてのキャリアが向いているとは限りません。
経営視点を持っていること
社労士法人の経営者は、労務管理の専門家であるだけでなく、事業としての視点を持ち、利益を生み出し、持続可能な組織を築く能力が必要とされます。
- 財務管理の能力
収支のバランスを考え、適切な投資を行う力 - マーケティングの能力
クライアントのニーズを把握し、適切なサービスを提供する力 - 組織運営の能力
スタッフの管理・育成を行い、チームのパフォーマンスを最大化する力
コミュニケーション能力
社労士法人の経営者として成功するには、顧客、従業員、関係者と円滑なコミュニケーションをとることが重要です。営業力にも大きく影響します。
- 顧客との信頼関係構築
長期的に契約を続けてもらうために、誠実な対応を心がける - チームマネジメント
スタッフと意思疎通を図り、適材適所で業務を割り振る - 交渉力
クライアントとの契約交渉や報酬設定などをスムーズに行う
リーダーシップと決断力
経営者は、法人の方向性を決める役割を担います。そのため、組織を導くリーダーシップが求められます。
- ビジョンを持つ
社労士法人の未来像を明確にし、スタッフに共有する - 迅速な意思決定をする
変化の激しいビジネス環境の中で、最適な判断を下す - 責任感を持つ
組織全体の成功や失敗の責任を負う覚悟を持つ
法人経営者に必要なスキルと知識
法人経営者には、社労士として誠実に業務を行うとともに、安定した経営を行う責務があります。個人の事務所運営よりも責任が重くなります。
経営戦略の立案力
社労士法人を持続的に成長させるためには、戦略的な視点が必要です。競争の激しい業界の中で、独自の強みを活かした経営戦略を考えなければなりません。
- 市場分析
競合と差別化するための分析を行う - ブランディング
法人のブランドを確立し、信頼を得る - 事業計画の策定
短期・中長期の経営計画を明確にする
人材の確保と育成
社労士法人の成長には、職員の確保と育成が欠かせません。優秀な人材を採用して、継続的に育成することで、組織の成長を促すことができます。
また、職員が働きやすい組織文化を構築することも重要です。コミュニケーションの活性化や、エンゲージメント向上の施策が求められます。
- 適切な採用
法人に必要な人材を見極める - 教育・研修の実施
スタッフのスキルアップを促進する - 評価とフィードバック
公正な評価制度を設け、従業員のモチベーションを高める
法律知識のアップデート
社労士としての専門性に加えて、法人経営者としては、税務・財務や企業法務の知識も必要となります。
- 関係する法律の最新情報
常に最新の法改正をキャッチアップする - 税務・財務の知識
財務管理のための基本的な会計知識を習得する - 契約関連の知識
トラブルを防ぐための法律知識を身につける
法人経営者としてのマインド
社労士法人がどのような組織になるのかは、経営者によって決まるといえます。事業方針や受注する案件の内容、職場の雰囲気にも大きく影響します。
成長意欲とチャレンジ精神
成功する社労士法人の経営者は、常に新しいことに挑戦し、成長し続ける姿勢を持っています。
- 積極的な人脈の構築
他士業や異業種との交流を広げる - 継続的な学習
セミナーや研修に参加し、最新の知識を得る
忍耐力と柔軟性
経営にはリスクや困難がつきものです。経営者には忍耐力と柔軟性が求められます。
- クライアントの要望に柔軟に対応する
- 業績が伸び悩んでも、粘り強く改善策を考える
- 外部環境の変化に対応し、迅速に適応する
まとめ
社労士が経営者として成功するためには、経営視点を持ち、組織運営やマーケティング、人材育成など幅広いスキルが求められます。
また、リーダーシップや成長意欲を持ち続けることで、法人を発展させることができるでしょう。
法人化のメリットを最大限に活かし、組織の成長とサービスの向上を目指すことで、より大きな成功を収めることができるようになります。
社労士としての専門知識を活かしながら、経営者として積極的にチャレンジしたいと考えている人の参考になれば幸いです。
社労士のキャリアパスについてはこちらの記事でご紹介します。

参考:全国社会保険労務士会連合会