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メンタルヘルス不調の未然防止で社会保険労務士ができる支援

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メンタルヘルス不調の増加は、多くの企業で経営課題になっています。人事担当としてもメンタルヘルスに関係する業務は一昔前に比べるとかなり増えたと感じる人が多いのではないでしょうか。

人事として私が担当した領域では、中堅から若手のメンタル不調が多く、会社を休んでいる日に旅行先でSNSをアップして、職場から指摘されるような人もいました。

就業環境や人間関係の問題だけでなく、働く人の意識も変化していることから、企業はこれまで以上にメンタルヘルスに配慮した経営が求められていくでしょう。

病気になってからの対応は非常に難しく、大変なことも多いので、病気にならないよう働く人の精神的な健康を守ることが、経営の観点からも重要になっています。

病気を治すことは医療の分野ですが、病気になるリスクを減らすために職場環境を改善する取り組みや研修を行うなど、社労士は労務管理の専門家として、メンタルヘルス不調を未然に防止する取り組みをサポートすることができます。

ここでは、メンタルヘルス不調の防止に、社労士がどのような支援を行えるのかについてご説明します。

メンタルヘルス不調と労務管理

メンタルヘルス不調は、早めに気づいて、悪化しないようにすることが何より重要です。そのためにも企業の実態に合った労務管理が必要になります。

メンタルヘルスの問題

企業におけるメンタルヘルス不調の増加は、さまざまな要因が考えられます。ストレスは見えませんし、個人差も大きいですので、さまざまな視点から対策することが求められます。

病気になりやすい要因

  • 長時間労働や過重労働によるストレス
  • 職場の人間関係(パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントを含む)
  • 働き方の変化(テレワークの普及による孤立感やストレス)
  • 経済不安やキャリアの不透明感

これらの要因により、メンタルヘルス不調から、うつ病、適応障害などの精神疾患を発症する人もいます。

企業のリスク

企業にとってメンタルヘルス不調者の増加は、社員個人の問題ではなく、組織全体の生産性や職場環境に大きな影響を及ぼす問題です。

リスクの例

  • 遅刻・欠勤の増加
  • 業務効率の低下
  • 休職・退職の増加による人材の流出
  • 人件費・採用費のコスト
  • 労働災害(精神疾患による労災認定)のリスク増加
  • 企業イメージの悪化

社労士ができるメンタルヘルス支援

社労士は、労働に関する法律や労務管理の知識を活かして、企業のメンタルヘルス対策を支援することができます。もちろん産業保健スタッフとの連携が欠かせません。

職場環境の整備

労働基準法や労働安全衛生法に基づき、職場環境の整備をサポートします。次のような施策を通じて、社員が健康的に働ける環境に貢献できます。

具体的な施策

  • 長時間労働の抑制と労働時間管理の適正化
  • ハラスメント防止の対策と実施支援
  • 健康経営の推進(ストレスチェック制度の導入・活用)

ストレスチェック制度の実施支援

ストレスチェック制度は、労働安全衛生法に基づいて導入された制度で、50人以上の事業場では実施が義務付けられています。ストレスチェック制度は、メンタルヘルス不調の未然防止が主な目的ですので、社労士は企業がこの制度を有効に活用できるようサポートします。

具体的な支援

  • ストレスチェックの実施計画の策定
  • 職場環境の改善提案
  • 高ストレス者への対応支援(産業医との連携)

ストレスチェック制度の流れ

ストレスチェック制度を適切に運用することで、ストレスの気づきや早期の対応、職場環境の改善が可能となります。

  1. 事業者による方針の表明
  2. 衛生委員会で調査審議
  3. 社員に説明
  4. 産業医等によるストレスチェックの実施
  5. 結果を社員に直接通知、相談窓口等の情報提供
  6. セルフケアと相談窓口利用 or 面接指導

休職・復職制度の導入

休職制度は、法定の休業や休暇以外で長期にわたり業務ができない場合に、雇用関係を継続したまま、一定期間の業務を免除する制度です。法律上義務付けられた制度ではありませんが、就業規則に定めることができます

また休職した社員の復職支援も重要です。他の病気やケガと違って、メンタル不調は復職しても短い期間でまた悪化することが多くあります。復職プロセスの整備や復職者、職場の負担軽減を目的とした対応を行います。

制度を運用していくには、産業医や産業保健スタッフとの連携が不可欠です。

休職制度の設計

休職制度を設計するには、対象となる事由、休職期間、申請手続き、休職中の待遇などを明確に定める必要があります。企業が任意で定める制度ですので、休職できる理由は企業ごとに違います。

  • 健康上の理由
    業務外の病気やケガによる長期の療養(私傷病休職)
  • 自己研鑽やキャリア開発
    ボランティア活動や海外留学など(自己都合休職)

休職中のサポート

休職中の社員に対しては、休職を認めるだけでなく、休職中も適切なサポートを行うことが必要です。

  • 健康管理のサポート
    定期的な健康チェックや医療相談の機会を提供する。
  • 職場の情報提供
    会社の最新情報や復職準備に関する情報を定期的に共有する。
  • メンタルサポート
    カウンセリングやリワークプログラムを紹介する。

復職制度の設計

復職制度では、休職者がスムーズに職場へ戻れるよう、業務の調整や周囲のサポートを考慮した仕組みが必要です。復職プロセスとしては、次のようなステップを設けるのが有効です。

  1. 復職の申請と診断書の提出
  2. 産業医などとの面談
  3. 試し勤務
  4. 正式な復職と継続的なフォロー

段階的な復職プログラムを準備することで、休職者が無理なく職場復帰できる環境を整えられます。また、復職直後の業務負荷を調整し、必要に応じて時短勤務や在宅勤務を活用することも有効です。

休職・復職制度の導入メリット

適切な休職・復職制度を導入することで、メンタル不調に気づいた社員が悪化する前に安心して休むことができるようになります。

  • 社員の定着率向上
    休職制度が整っていることで、社員が安心して長期的に働ける環境が整う。
  • 企業イメージの向上
    働きやすい環境を提供することで、優秀な人材の確保につながる。
  • 生産性の向上
    社員の退職が減ることで、組織全体としてより高いパフォーマンスを発揮できる。

職場復帰の支援

メンタル不調者がスムーズに職場に復帰するためには、あらかじめ体制を整備してルール化しておくことが求められます。

職場復帰支援の流れ

社労士は厚生労働省の職場復帰支援の手引きを基に職場復帰をサポートすることができます。

  1. 病気休業開始および休業中のケア
    ・傷病手当金の手続き
    ・相談窓口の紹介
    ・休職制度の適用
  2. 主治医による職場復帰可能の判断
    ・職場で必要とされる業務遂行能力の内容
  3. 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成
    ・産業医の判断
    ・就業上の配慮
    ・配置転換の必要性
    ・職場の受け入れ
    ・試し勤務
  4. 最終的な職場復帰の決定
    ・復職日の決定
    ・就業上の配慮を社員に通知
  5. 職場復帰後のフォローアップ
    ・再燃・再発や新たな問題の有無
    ・勤務状況や業務遂行の評価
    ・職場環境の改善

復帰プログラム・プランの作成

メンタル不調者の職場復帰には段階的な復帰支援が必要です。企業や職場の実態に合ったプログラムを策定して、個別の支援内容についてもプランを作成します。

メンタルヘルスの教育・研修

メンタルヘルス対策には、企業や職場単位でメンタルヘルスケアを根付かせることが重要です。社員研修を実施することで、全体の意識向上とサポート体制を強化することに貢献できます。

研修の目的

  • ストレスマネジメントの知識
    社員自身が自分のストレスに気づき、適切に管理できるようになる。
  • 職場の支援意識の醸成
    上司や同僚がメンタルヘルスに関する知識を深め、支援の姿勢を持つ。
  • 早期発見・適切な対応
    メンタル不調のサインを見逃さず、適切な対応を取れるようになる。

研修の内容

  • メンタルヘルスの基礎知識
    ストレスの種類や影響について学ぶ。
  • セルフケアの方法
    リラクゼーション法やライフバランスの取り方を習得。
  • 職場でのコミュニケーション
    上司・同僚との円滑な対話方法を学ぶ。
  • 復帰支援の具体策
    復職者への適切な対応や配慮を理解する。

研修の実施方法

メンタルヘルス対策の研修は、対面形式やオンライン研修、eラーニングなど多様な形態で実施できます。事例を交えたワークショップ形式の研修も有効です。

専門家との連携

中小企業では、社内にメンタルヘルスの担当がいなかったり、取り組み方がわからないということがあります。社労士もメンタルヘルスの専門家ではありませんが、外部の専門家とクライアント企業をつなぐ役割を担うことができます。

EAPとは

EPA(Employee Assistance Program)とは、従業員支援プログラムのことで、社員のメンタルヘルス対策のために支援を行うプログラムのことです。EPAには外部の専門家にアウトソースするサービスがあり、導入企業が増えています。

  • ストレス診断
  • カウンセリング
  • 医療推奨
  • 教育・研修
  • 復帰支援プログラム など

情報発信による支援

クライアント企業のサポートだけでなく、メンタルヘルス対策で効果があった事例などを共有することで、同じ課題を抱える企業へ有益な情報を提供することができます。

支援の例

  • ブログやSNSを活用した情報発信
  • メンタルヘルスに関するオンラインセミナーの実施
  • 企業向けニュースレターの配信
  • 教育コンテンツの作成(動画、eラーニングなど)

まとめ

メンタルヘルスの問題は、個人の健康だけでなく、企業全体の生産性や経営にも大きな影響を与える重要な課題です。社労士は、就業環境の改善や制度の整備、教育・研修などを通じて、企業と社員の双方にとってメリットのあるメンタルヘルス対策をサポートすることができます。

適切なメンタルヘルス対策を講じることで、持続可能な経営を推進することに貢献できます。これからの時代、社労士の専門知識を活かしたメンタルヘルス支援の重要性はますます高まるでしょう。

メンタルケア心理士の資格については、こちらの記事でご紹介します。

メンタルケア心理士になるには?資格の取り方・活かし方
この記事では、相談やカウンセリング業務に役立つ知識・スキルを習得できるメンタルケア心理士についてご紹介します。

参照:厚生労働省「安全・衛生」、「こころの健康」、「こころの耳」