社会保険労務士は独立して事務所を開業することができる資格です。社労士事務所は多くの場合、企業の人事に関する業務を専門的に行っています。
社労士事務所は主に中小企業をクライアントとして、企業経営を「人」からサポートします。働き方や雇用環境の変化を背景に、社労士への期待は高まっています。
ここでは、社労士が独立する流れ、事務所の業務、成功するためのポイント、そして開業のメリットとデメリットについてご紹介します。
社会保険労務士の開業
社会保険労務士の独立とは、社労士事務所(法人)を開業することといえるでしょう。
社労士事務所を開業するには、社労士試験に合格して全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿への登録が必要になります。登録には実務経験または事務指定講習の修了が要件となっています。
①社労士試験に合格する
②社労士登録の要件を満たす(実務経験 or 事務指定講習)
③事務所所在地の社労士会に登録申請する
開業するために必要なこと
社労士の登録と同時に事務所を開業する所在地の社労士会に入会することになります。
登録には「開業」と「勤務」、「その他等」があり、「開業」の登録することで正式に社労士としてクライアントから依頼を受けて業務することができるようになります。
登録の流れ
- 入会する都道府県社労士会に申請する。
- 連合会の審査・登録手続き
- 登録完了後に証票の発行
社労士試験に合格したら必ず登録しなければならない、というわけではありません。登録については、こちらの記事で詳しくご紹介します。

社労士事務所の開設準備
社労士の登録は、事務所所在地の社労士会に申請しますので、事務所をどこにするかは最初に決めておかなければなりません。
事務所開設に必要な準備は、同時進行あるいは次のステップで進めると効率的です。
①オフィスを決める
②メールアドレスを作る
③名刺を作る
④固定電話番号を作る(適宜)
⑤ホームページを作る
オフィスを決める
社労士事務所を開業するには所在地の社労士会に入会する必要があります。立地やスペース、作業環境などを検討して、自分の仕事のやり方に合った場所を選ぶことになります。
自宅で開業する
手軽にできるのが自宅での開業です。費用もかからず作業スペースがあれば仕事はできます。
ただし、打ち合わせなどをする場合には不便が生じることがあります。また主なクライアントが企業であることから信用度にも影響はあると思います。
レンタルオフィスに入居する
小さな個室を借りたり、仕切られているブースなどを利用することができます。住所や電話応対などのサービスを契約することもできます。
起業する人に多く利用されています。私も利用しました。守秘義務のある社労士の事務所として登録できるかどうかの注意は必要です。
事務所を借りる
開業するために事務所を構えるというのは一般的なケースといえるでしょう。
ただし、費用がかかりますので、開業当初からとなると負担は大きいと思います。知り合いの事務所に間借りして、費用を抑えるケースもあります。
共同で事務所を借りる
他士業と合同事務所を設立して、共同で事務所を借りるというケースもあります。
メールアドレスの作成
社労士事務所を運営するうえで、メールアドレスは営業活動やクライアントとの重要な連絡手段です。
事務所に合ったアドレスを設定することで、信頼性や業務効率が向上します。
独自ドメインの取得
独自ドメインのメールアドレスを取得するのが望ましいといえます。
「info@○○-sr.com」や「contact@○○-office.jp」など、事務所名が入ったアドレスは、専門性や信頼感を高めます。
用途別のアドレス
一般問い合わせ用、顧客専用、求人応募用など、複数のアドレスを用意することで業務の整理がしやすくなります。
社労士事務所のメールアドレス作成については、こちらの記事で詳しくご紹介します。

名刺の作成
社労士の名刺は企業経営者や人事担当者、同業者などと交換することが多くなります。
単なる連絡先の提示ではなく、信頼性や専門性、人柄などを伝える営業ツールとしての役割を担います。
基本情報
名刺に記載される基本情報は、名前、肩書き(社会保険労務士)、事務所名、住所、電話番号、メールアドレスなどです。これらはシンプルかつ読みやすく配置されていることが重要です。
また、事務所のウェブサイトがある場合は、QRコードを掲載することで、手軽に詳細な情報を提供できます。
名刺交換の場では、限られた時間内で相手に印象を残す必要があります。文字が小さすぎたり、情報が詰め込みすぎていたりすると、せっかくの名刺も効果を発揮できません。フォントの種類や色使いにも注意し、視認性を高める工夫が求められます。
専門性
社労士の名刺には専門分野や得意とする業務内容を簡潔に記載することで、相手に強みをアピールすることができます。
たとえば、「労務トラブル解決」「就業規則作成・見直し」「助成金申請サポート」など、具体的なサービス内容を記載することで、どのような相談に対応できるのかを明確に伝えられます。
名刺交換後
名刺は交換して終わりではなく、その後の関係構築の第一歩です。名刺交換後には、メールや電話で簡単な挨拶やお礼を伝えることで、より強固な信頼関係を築くことができます。
また、名刺にSNSのアカウントを記載しておくことで、気軽に連絡を取り合える環境を提供することも効果的です。
社労士の名刺作成については、こちらの記事で詳しくご紹介します。

固定電話番号の作成
社労士事務所の連絡先として、固定電話の番号はあった方がよいでしょう。新規に契約しなくてもレンタルオフィスなど、固定電話の番号を利用できるサービスはいろいろあります。
固定電話番号の利用
- レンタルオフィスの受付・秘書サービス
- 固定電話番号を利用できるスマホアプリ
- 固定電話の回線を契約
電話番号の作り方については、こちらの記事でご紹介します。

ホームページの作成
開業しただけでは仕事を獲得することはできません。集客方法はいろいろだと思いますが、やはりホームページは必須といえるでしょう。今の時代では事務所の「顔」として名刺以上の役割を果たします。
検索だけでなく、例えば、企業経営者と名刺交換して、後日打ち合わせをすることになった場合にも、どのような事務所なのか事前にホームページで確認するというのは普通のことだといえるでしょう。
ウェブサイトの目的
社労士事務所のウェブサイトを構築するときに、まず重要なのは「何を目的とするか」を明確にすることです。目的を明確にすることで、サイトの構成やコンテンツ作成の方向性が定まります。
- 信頼性の向上
事務所の専門分野や実績を伝え、信用度を上げる。 - 情報の提供
サービスについて情報を提供し価値を理解してもらう。 - 新規顧客の獲得
ウェブサイト経由でお問い合わせを受ける
コンテンツの内容
社労士事務所のウェブサイトには、訪問者が求める情報をしっかりと掲載することが重要です。掲載するコンテンツとしては、次のような内容が考えられます。
- 事務所概要
事務所名、所在地、代表者名、理念 - サービス案内(業務内容)
対応できる業務について、具体的な内容を記載 - 代表者プロフィール
代表者の資格、経歴、専門分野、メッセージなどを掲載 - お客様の声・実績
顧客の声を紹介(開業時は難しいかもしれません) - お問い合わせの連絡先
簡単に連絡が取れるフォームや電話番号、メールアドレスを設置 - ブログ・コラム
労務関連の最新情報やコラムを発信
作成方法
ウェブサイトそのものは個人でも比較的簡単に作成することができます。私は開業前にグループワークに参加して学びました。
ただし、コンテンツの内容を検討してサイトを完成させるまでの作業はそれほど楽ではありません。さらに、検索結果から自分の事務所を見つけてもらい、お問い合わせまでつなげるのは、なかなか難しいことです。
そこは、専門のサービスを利用するというのも選択肢のひとつだと思います。費用はかかりますが、自分で対応する手間や時間を軽減することができます。
社労士のホームページ作成については、こちらの記事で詳しくご紹介します。

必要な資金
登録料や事務所の開設費用、事務用品の購入費などを含め、初期費用として最低でも50~100万円程度はあった方よいでしょう。
すぐに仕事があるとは限りませんので、生活費等も含めるともっと多く必要となります。
資金調達と設備投資
開業資金を準備するために、自己資金や融資などを活用することが一般的です。また、必要に応じて事務所設備(パソコン、プリンター、ソフトウェアなど)の購入も行います。
独立開業後の活動
社労士として仕事を覚えて、活動を軌道に乗せるには、同業者との人脈づくりが重要です。
社労士の人脈を作る
社労士同士で情報を共有したり、これまでの経験を聞けることは開業してからの活動に大きく役立ちます。
社労士の勉強会
所属によると思いますが、自主的な勉強会などのグループがあり、興味のあるテーマに参加することができます。
勉強になるのはもちろん、実際の業務についての話を聞くことができます。
社労士のコミュニティ
社労士や企業が主催するコミュニティがあり、ネット上で情報交換が行われています。
有料・無料やサービスの内容がそれぞれ違いますので、自分に合ったサービスがあれば参加してみるのもよいでしょう。
社労士事務所の業務
社労士事務所の業務は幅広く、多岐にわたります。多くは企業と顧問契約を結び、企業の従業員に必要な手続きなどを行います。中小企業の人事部のような存在といえます。
年金相談などは個人から依頼を受けることもあります。
主な業務内容
- 労務管理、その他の労働に関する相談対応
- 就業規則の作成・届出
- 労働保険・社会保険の諸手続き
- 人事制度・賃金制度の構築支援
- 雇用関係の助成金に関するアドバイスや申請手続き
- 給与計算
- 教育訓練
収入の構造
社労士の報酬は、それぞれの事務所が自由に設定することができます。業務の受注方法も自由です。ネット上にある情報が参考になります。
報酬の例
- 手続きごと
1件ごとの手続きや相談業務について料金を決める。 - 顧問契約
毎月一定の顧問料を定める。 - 成功報酬
助成金申請などで受給時に受け取る。
成功するためのポイント
社労士として成功するためには、いろいろなきっかけやタイミングがあると思います。何といっても一番は営業力にかかっているといえるでしょう。
集客方法
開業直後は顧客ゼロからのスタートがほとんどでしょう。効果的な集客方法を見つけて、組み合わせて実践することをおすすめします。
- ウェブサイトの活用
- SNSの利用
- ネット広告
- 人脈・紹介
- セミナー開催
社労士の集客方法については、こちらの記事でご紹介します。

信頼構築の重要性
社労士として安定した収入を得るには、クライアントとの関係性が重要です。
- 迅速な対応
- 正確な知識
- 人間関係の構築
独立開業のメリット・デメリット
社会保険労務士として独立開業することは、独立して自由に働けるというメリットだけでなく、リスクとなるデメリットも理解しておく必要があります。
メリット
- 自由度の高さ
自分のペースで仕事ができ、働く時間や場所を選べる。 - 社会的意義
企業や働く人の課題解決に貢献できる。 - 収入の可能性
自分次第で収入を増やせる可能性がある。
デメリット
- 経営リスク
集客がうまくいかないと収入が安定しない。 - 自己管理の必要性
スケジュールや収支管理など、多くのタスクを自己責任で行う必要がある。 - 法改正への対応
常に最新の知識を学び続ける努力が求められる。
まとめ
社労士事務所は資格者であれば、短い準備期間でも開業を目指すことができます。一方で、営業力がなければ廃業のリスクが伴います。
独立開業を目指している人は、しっかり準備することは必要ですが、できるだけ早めにチャレンジしていろいろやってみることをおすすめします。
そのなかから少しずつでも道が開けていくと思います。小さな一歩が、成功への大きな第一歩となる参考になれば幸いです。
社労士事務所の開業10ステップ
①社労士事務所のオフィスを決める
②社労士の名刺を作る
③社労士のメールアドレスを作る
④社労士事務所の電話番号を作る
⑤社労士事務所のコンテンツを決める
⑥社労士事務所のホームページを作成する
⑦社労士事務所のウェブサイトを運営する
⑧社労士事務所のパンフレットを作る
⑨社労士事務所のロゴを作る(適宜)
⑩事務所名やロゴの商標登録をする(適宜)
参照:厚生労働省「社会保険労務士制度」、全国社会保険労務士会連合会ウェブサイト