社会保険労務士試験は8科目で行われ、大きく「労働関係科目」と「社会保険関係科目」に分けることができます。
幅広い範囲から出題されますので、短期合格を目指すのであれば、それぞれの試験科目で効率的に学習を進める必要があります。
市販されている基本テキストや社労士講座の教材は出題傾向に合わせてまとめられていますが、それでもかなりのボリュームです。
短期合格を目指す場合は、テキストの内容を隅々まで理解しようとするよりも、試験に出やすい項目について重点的に学ぶことをおすすめします。
私は出題傾向に合わせて、かなりメリハリをつけて学習を進め、結果的に1回の受験で合格することができました。
ここでは、労働関係科目について優先した学習項目と勉強のコツをご紹介します。
社会保険労務士の労働関係科目でよく出る項目とは?
社会保険労務士試験は、8科目10分野から出題され、午前に選択式(80分)、午後に択一式(210分)が行われます。
労働関係科目(分野)は、次のとおりです。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用保険法
- 徴収法
- 労務管理その他の労働に関する一般常識
試験科目 | 選択式 | 択一式 |
---|---|---|
労働基準法及び労働安全衛生法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
労働者災害補償保険法 (徴収法を含む) | 1問/5点 | 10問/10点 |
雇用保険法 (徴収法を含む) | 1問/5点 | 10問/10点 |
労務管理その他の労働に関する一般常識 社会保険に関する一般常識 | 1問/5点 1問/5点 | 10問/10点 |
健康保険法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
厚生年金保険法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
国民年金法 | 1問/5点 | 10問/10点 |
合計 | 8問/40点 | 70問/70点 |
選択式では、「徴収法」からの出題はありません。
択一式の「労働者災害補償保険法」と「雇用保険法」は、各10問のうち3問(計6問)が「徴収法」から出題されます。
合格基準点があり、試験結果を総合的に勘案して補正が行われます。それぞれの科目ごとに定められ、合格発表日に公表されます。
労働基準法の対策
労働基準法は憲法25条1項の生存権の規定を受けて、労働条件の最低基準を定めた法律であり、労働者を保護し、使用者に一定の制限を設けようとしたものです。
労働基準法(特別法)は民法(一般法)に優先して適用されます。労働者の採用から退職までに関わることを規定した働く人にとって馴染みのある法律といえます。
項目 | 優先度 |
---|---|
総則 | ★★ |
労働契約全般 | ★★☆ |
解雇・退職 | ★★★ |
賃金 | ★★★★ |
労働時間・休憩・休日 | ★★★★★ |
年次有給休暇 | ★★★☆ |
年少者・女性 | ★★★ |
就業規則 | ★★★☆ |
寄宿舎・監督機関 | ★☆ |
雑則(労働者名簿・賃金台帳等)・罰則等 | ★★★ |
出題傾向
労働基準法からは網羅的に出題されます。条文だけでなく、判例や通達の正しい理解を必要とする問題が増えています。
理由は条文がわかれば解けるという問題だけでなく、応用問題や通達からの出題が多くなっています。
私の場合は、人事部勤務で日常的に接する法律ですので、学習内容を難しいと感じていたわけではないのですが、最後まで思うように得点を伸ばすことができない科目でした。
暗記で対応したつもりはないのですが、条文だけでなく、関連する事項をしっかり理解して進めることが重要だと思います。
勉強のコツ
ほとんどの人が労働基準法から学習をスタートするのではないかと思います。
労豪基準法は全科目のなかでも重要ですので、あまり省ける項目はありませんが、頻出項目を中心に理解を深めるようにしましょう。
テキストで内容を理解し、過去問題集を繰り返すという方法です。
労働基準法は重要な条文がたくさんあります。各項目について理解するとともに通達等も押さえておく必要があります。
条文そのものが難しいわけではないので、取り組みやすいと思います。
労働安全衛生法の対策
労働安全衛生法は労働災害を防止するために職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進することを目的として、安全衛生管理体制等について規定している法律です。
項目 | 優先度 |
---|---|
総則 | ★★★ |
安全衛生管理体制 | ★★★★★ |
機械等及び有害物に関する規制 | ★★★☆ |
安全衛生教育・作業環境測定・健康診断等 | ★★★☆ |
免許・安全衛生計画等 | ★ |
監督・届出・罰則・衛生基準その他 | ★★★ |
出題傾向
択一式10問のうち労働基準法からは7問、労働安全衛生法からは3問出題されます。
出題が少ないので対策が難しいのですが、多くの規定があるなかで安全衛生管理体制からよく出題されています。
勉強のコツ
安全衛生管理体制、機械等及び有害物に関する規制、健康の保持増進のための措置を中心にテキストで内容を理解して、過去問題集を繰り返すのが効率的です。
従業員の健康については、企業でも経営課題として対策されるようになっていますので、よく理解しておくようにしましょう。
条文も関連法令も多いですが、出題されるのは3問です。全問正解を目指して、深追いするのは効率的ではありません。
ポイントを押さえて、頻出項目を重点的に学習することをおすすめします。
労働者災害補償保険法の対策
労働者災害補償保険法は、業務上の事由または通勤による労働者の災害に対して必要な保険給付を行うことを規定した法律です。
業務上または通勤により負傷や疾病にかかった労働者や遺族への保険給付、社会復帰の促進、適正な労働条件の確保等を図り、労働者の福祉の増進に寄与することを目的としています。
項目 | 優先度 |
---|---|
業務災害・通勤災害の認定 | ★★☆ |
給付基礎日額 | ★★☆ |
保険給付の通則 | ★★★★★ |
療養補償給付 | ★★★★ |
休業補償給付 | ★★★★ |
傷病補償年金 | ★★★★ |
障害補償給付 | ★★☆ |
介護保障給付 | ★★★ |
遺族補償給付 | ★★★ |
二次健康診断等給付 | ★★☆ |
通勤災害に関する給付 | ★★★★ |
損害賠償、他法との調整 | ★★★☆ |
特別支給金 | ★★★☆ |
特別加入 | ★★★☆ |
給付制限・費用徴収・不服申立・雑則等 | ★★★ |
出題傾向
「労災」の科目ですので、保険給付に関する出題が多く、制度についてしっかり理解することが重要です。
改正点もしっかりチェックしておく必要があります。難しい問題もありますが、多くは基本事項から出題されます。
勉強のコツ
労災保険法からはあまり難解な問題は出題されていませんので、保険給付を中心に基本的な項目について幅広く理解することがポイントとなります。
労災保険法は保険給付の各要件、手続き規定の内容を押さえることが重要になります。
細かい請求手続き規定などよりも基本的な内容をしっかり押さえることで得点できる科目です。
雇用保険法の対策
雇用保険法は雇用全体の安定を図ることを目的とする法律です。
雇用保険は労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が職業教育訓練を受けた場合に必要な給付を行います。
雇用保険は失業等給付を行うほかに、雇用安定事業、能力開発事業、雇用福祉事業を行うことができます。
項目 | 優先度 |
---|---|
総則 | ★★★★ |
失業等給付の基本事項 | ★★★★★ |
一般被保険者の求職者給付(基本手当) | ★★★★★ |
基本手当以外の求職者給付 | ★★★☆ |
高年齢求職者給付金 | ★★ |
特例一時金 | ★ |
就職促進給付 | ★★★☆ |
教育訓練給付 | ★★★ |
雇用継続給付(高年齢・育児・介護) | ★★★☆ |
雇用三事業 | ★★★ |
給付制限・雑則 | ★★ |
出題傾向
雇用保険法からは失業給付が継続して出題されています。 給付金や助成金、手続きや届出に関してもよく出題されます。改正が多く、改正点からの出題が目立ちます。
勉強のコツ
基本的な内容を理解しておけば解ける問題が比較的多いので、基本手当を中心にテキストを熟読し、過去問題集を繰り返すのが効率的です。
基本手当(一般にいう失業保険のこと)の基本事項を重点的に押さえることが必要です。
基本手当のほかには雇用継続給付、教育訓練給付なども重要です。改正については常に最新情報をチェックしておきましょう。
徴収法の対策
労働保険の保険料の徴収等に関する法律は、労働保険(労災保険と雇用保険)の事業の効率的な運営を図るため、労働保険の保険関係の成立及び消滅、労働保険料の納付の手続き、労働保険事務組合等に関して必要な事項を定めています。
一般的に「徴収法」と呼ばれます。
項目 | 優先度 |
---|---|
総則 | ☆ |
保険関係の成立及び消滅 | ★★★★ |
保険関係の一括 | ★★★★ |
労働保険料全般(賃金総額・保険料の負担等) | ★★★★★ |
メリット制 | ★ |
概算保険料 | ★★★★☆ |
確定保険料 | ★ |
印紙保険料 | ★★★ |
時効・不服申立・罰則等 | ★★ |
労働保険事務組合 | ★★★★ |
出題傾向
労働保険料の納付手続きを中心として、択一式試験で労災保険法と雇用保険法とあわせて出題されます。
勉強のコツ
賃金総額、保険料の額、追徴金など労働保険料全般を重点的に学習する必要があります。計算問題にも慣れておいた方がよいでしょう。
労働保険料の額及び納付の手続きについて定めた法律ですので、具体的に保険料額の計算や納付金額についても理解する必要があります。
まとめ|社労士の労働関係科目は完璧ではなく合格主義で!
労働関係科目を苦手としている人は多いのではないでしょうか。
私の場合は、苦手意識はなく、むしろ好きな科目だったのですが、どうしても得点を伸ばすことができず、本試験の結果も補正クリアでした。
労働関係科目の出題は重要な条文だけでなく、判例や通達など広範囲に及びますので、苦手だからといって網羅的に理解しようとすれば深みにはまります。
出題される可能性の高いものを優先して、重点的に学習することをおすすめします。
社労士試験は、満点を目指す必要はありませんので、合格基準をクリアできるレベルを目指しましょう。
労働関係科目を苦手としている人にとって、少しでも参考になれば幸いです。
社会保険関係科目については、こちらの記事でご紹介します。

自習室の活用については、こちらの記事でご紹介します。

参考:厚生労働省、社会保険労務士試験オフィシャルサイト