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特定社会保険労務士とは?何ができる資格なのかを解説します

成約の握手 社労士ナビ

特定社会保険労務士は、従業員と企業のトラブルが紛争になったときに当事者を代理して手続き等を行い、問題を解決に導くことができる資格です。

解雇や未払い残業代、雇止めなどは、労働問題として取り上げられることも多いですよね。紛争となるのは、当事者間で折り合いがつかなかったり、従業員が納得できずに労働局に相談するなどのケースがあります。

人事部社員として個別労働紛争の経緯を見てきた経験がありますが、トラブルを解決に導くことの難しさや重要性を強く感じています。働き方が多様化、複雑化していくなかで、裁判ではない方法で、問題を解決することの重要度は、今後さらに高まっていくでしょう。

ここでは、特定社会保険労務士の資格について、業務内容や資格の取り方をご紹介します。

特定社会保険労務士の資格

特定社会保険労務士の業務については、「社会保険労務士法」の第2条1項の4~6に規定されています。簡単にまとめると次のような業務ができるとされています。

  • 個別労働紛争解決促進法に基づく紛争調整委員会におけるあっせんの手続き並びに障害者雇用促進法、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法及び短時間労働・有期雇用労働法の調停の手続きを代理すること
  • 都道府県労働委員会における個別労働関係紛争のあっせん手続きを代理すること
  • 個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う民間紛争解決手続において当事者を代理すること(単独で代理することができる紛争目的価額の上限は120万円)

参照:e-Gov「社会保険労務士法」

特定社会保険労務士の役割

特定社会保険労務士は、個別労働関係紛争を解決するために、当事者に代わって手続きを行うことができる資格です。

この「紛争解決手続代理業務」は、社会保険労務士の業務として期待される分野の一つとされています。

特定社労士は、紛争当事者の言い分を聞くなどしながら、労務管理の専門家である知見を活かして、個別労働紛争を「あっせん」などの手続きによって解決を目指します。

裁判外紛争解決手続

雇用形態や働き方の多様化により、労働環境は複雑になっています。労働トラブルの解決手段として裁判がありますが、裁判はお金も時間もかかります。

そのため、裁判によらずにトラブルを解決するための制度として裁判外紛争解決手続(ADR:Alternative Dispute Resolutionの略)という制度が設けられています。

裁判外紛争解決手続には、都道府県労働局の「あっせん」や社会保険労務士会(厚生労働大臣が指定する「社労士会労働紛争解決センター」)が行う民間紛争解決解決手続があります。

この制度を専門的な立場で支援するのが「特定社会保険労務士」です。

紛争解決手続代理業務について

紛争解決手続代理業務は、労働トラブルを裁判ではなく、話し合いによって解決を目指す制度(裁判外紛争解決手続)において、特定社労士が当事者を代理して解決の支援を行うことです。

あっせんとは

「あっせん」とは、紛争解決手段として、訴訟ではなく話し合いによる解決を促すものです。この制度は無料~安価で利用でき、裁判と比べて迅速に解決を目指せることが特長です。

「あっせん」は、都道府県労働局のほかに、社会保険労務士会による「社労士会労働紛争解決センター」が行っています。

「あっせん」では、解雇や賃金の問題など、職場のトラブルの当事者双方の言い分を交互に聞きながら、適切な和解案を提案し、話し合いによって円満解決を図ります。

あっせんの流れ

  • あっせん申請
  • 受理とあっせん員の指名
  • あっせん・意見聴取
  • あっせん案の提示
  • 解決または打ち切り

合意に至らない場合は手続が終了しますが、労働審判や裁判など別の手段に移行することもできます。

あっせんが果たす役割

職場のトラブルなどの労働問題は、裁判によって解決することが一般的でしたが、「あっせん」という解決方法が整備され、活用されるようになっています。一度、和解契約が成立した場合には、民法上の和解と同様の効力があります。

社労士はその専門性を活かし、申立人の代理人として解決の支援を行います。労働問題はあっせんを利用することで、訴訟手続きをしなくても双方が納得できる解決策を見つけられる可能性が高まります。

迅速に解決

裁判に比べて短期間で解決を目指すことができます。労働者と経営者が直接対面することもありません。

専門家が調整

労働問題に精通した専門家が納得できる和解を目指して話し合いを進めます。内容によっては弁護士の助言や同席もあります。

費用負担が軽い

あっせんは、安価な手続き費用(無料〜10,000円)で、弁護士を介する訴訟よりも費用負担が軽減されます。

客観的なアドバイス

公平な第三者が介入するため、当事者同士の直接対立が緩和されます。代理人はあっせんの提案を適切に評価し、受け入れるか否かを判断する助言も行います。

あっせんの対象と課題

あっせんは労働問題を迅速に低費用で解決できる手段として有効ですが、課題もあります。

あっせんの対象

あっせんの対象は個別労働紛争だけです。つまり、賃金、解雇や配属に関することなどの労働契約やその他のパワハラなど労働関係に関する、個々の従業員と企業との間の紛争が対象となります。

労働組合と企業との紛争(集団的労使紛争)、労働基準法等の法規違反や従業員と企業との私的な問題等は対象にはなりません。

あっせんの課題

あっせん案には法的な強制力がないため、合意に至らない場合もあります。また合意しても合意内容が履行されない場合、再びトラブルに発展する可能性があります。

対象が個別労働関係だけですので、集団的労使紛争や対象とならないトラブルでは利用できません。

特定社会保険労務士になるには

特定社会保険労務士は、社会保険労務士の資格者であればなれるわけではなく、別途、試験に合格する必要があります

特定社会保険労務士になる流れ

社労士が特定社労士になるには、「厚生労働大臣が定める研修」を修了して、「紛争解決手続代理業務試験」に合格した後に、その旨を連合会に備える社会保険労務士名簿に付記(登録)しなければなりません。

研修の受講

研修は各都道府県の社会保険労務士会ごとに運営されます。研修には社労士試験には含まれない民法、憲法の講義など60時間程度で数ヵ月かかります。

試験の合格

研修を修了して、試験に合格することで、特定社労士としての登録が可能になります。

登録の申請

試験合格後、特定社労士として社会保険労務士会に登録することで、紛争解決手続代理業務を行うことができるようになります。

特別研修

紛争解決手続代理業務を行うには、必要な学識と実務能力に関する研修である「特別研修」を受講します。

中央発信講義

個別労働関係紛争に関する法令および実務に関する研修です。

  1. 特定社労士の果たす役割と職責
  2. 専門家の責任と倫理
  3. 憲法(基本的人権に係るもの)
  4. 民法(契約法、不法行為法の基本法則に係るもの)
  5. 労使関係法
  6. 労働契約・労働条件
  7. 個別労働関係法制に関する専門知識
  8. 個別労働関係紛争解決制度

グループ研修

個別労働関係紛争における書面の作成に関する研修です。ゼミナールで行うケース・スタディーを中心にグループで行います。

ゼミナール

個別労働関係紛争の解決のための手続きに関する研修です。ロールプレイ等の手法を取り入れて行います。

紛争解決手続代理業務試験

紛争解決手続代理業務試験は年に1回実施されています。合格者の6割近くを30~40歳代で占め、続いて50歳代の合格者です。

試験情報

  • 受験資格:社労士であり、かつ、連合会が実施する特別研修の修了者であること
  • 試験地:北海道、宮城県、東京都、愛知県、大阪府、広島県、福岡県
  • 平均合格率:65%

(社会保険労務士会『社会保険労務士白書2023年版』より)

特定社会保険労務士の展望

職場のトラブルは社会や労働環境の変化に伴い、増加しています。働き方が多様化、複雑化するなかで、トラブルをどのように解決するか、特定社労士のニーズはさらに高まると考えられます。

トラブルの増加

解雇や賃金に関するトラブル、ハラスメント問題など、紛争は年々増加しています。これらのトラブルに特定社労士が迅速かつ適切に対処することで、従業員と企業の対立を最小限に抑えることに貢献できます。

労働環境の多様化

雇用形態や働き方が多様化したことで、これまでの労働契約や就業規則では対応できないケースが増えています。特定社労士は、これらの多様な労働環境における問題解決の専門家としての役割を担えます。

専門性の高度化

特定社労士には、より高度な専門知識が求められるようになると考えられます。メンタルヘルスや国際的な労働問題に対応した就業環境の改善などが想定されます。

まとめ

「特定社会保険労務士」は、社労士のなかでも紛争に特化した業務を行う専門家です。紛争の解決は簡単なことではありません。

企業の人事側で経緯を見ていたトラブルは、解雇に関するものでしたが、元社員と会社の言い分は平行線で交渉は厳しいものでした。

特定社労士はなることも簡単ではないですが、なってからの業務はより大変なのではないかと想像できます。ですが、覚悟を持って目指す人にとっては、挑戦の価値がある資格だと思います。

特定社労士が提供する価値が多くの働く人や企業に認識され、活躍の場が広がることを期待したいと思います。

特定社労士として活動するには、多くの努力と責任が伴いますが、その分得られる知識や経験は非常に高度であり、他の専門家との差別化にもつながります。

これから社労士を目指す人にとって、特定社労士という働き方もあることを知ってもらえれば幸いです。

社労士の資格取得についてはこちらの記事でご紹介します。

参照:全国社会保険労務士会連合会『社会保険労務士白書』、社労士会労働紛争解決センター、e-Gov法令検索「社会保険労務士法」