社会保険労務士になるには、社労士試験に合格して、社労士名簿へ登録を受ける必要があります。
社労士試験に合格すれば自動的に社労士として登録できるわけではなく、「2年以上の実務経験」または「事務指定講習の修了」が必要となります。
未経験でも試験に合格して早く社労士として活動したい人にとっては、「2年以上の実務経験」が長いと感じるかもしれませんね。
そういう場合には「事務指定講習を修了」すれば、社労士の実務経験がなくても同等とみなされ、登録の要件を満たすことができます。
ここでは、実務経験がなくても社労士登録ができる「事務指定講習」についてご紹介します。
社労士になるには「実務経験」か「事務指定講習の修了」が必要
社労士試験の合格者は、自動的に「社会保険労務士」の資格を取得できるわけではありません。
社会保険労務士の資格を取得するには、社会保険労務士会の社労士名簿に「登録」を受ける必要があります。
社会保険労務士の登録には、2つの要件があります。
- 2年以上の実務経験
- 事務指定講習の修了
2つのうち、どちらかの要件を満たす必要があります。
社会保険労務士の登録とは?
まず、社労士の登録について押さえておきましょう。
社労士として活動するためには、全国社会保険労務士会連合会の社労士名簿に登録して、都道府県社会保険労務士会に入会する必要があります。
入会しなければ社会保険労務士を名乗って業務をすることができません。
また、登録するには、2年以上の実務経験(試験の前後不問)か事務指定講習を修了することが要件となっています。
会員区分
登録には、「開業会員」「勤務会員・その他等」の区分があります。
- 「開業会員」
→事務所を開業して社労士業務を顧客から受注できる登録になります。 - 「勤務会員」
→勤務先の社労士業務ができる登録です。顧客との契約主体にはなれません。 - 「その他等」
→社労士の実務は行わず講師や執筆活動で社労士を名乗って活動できる登録になります。
社労士の登録をしない場合については、こちらの記事でご紹介します。

どんな実務経験が必要?
社会保険労務士として登録するには、2年以上の労働社会保険諸法令に関する実務経験が必要となります。
登録要件の実務経験となる「労働社会保険諸法令関係事務」には、次のような業務が含まれます。
- 雇用保険、健康保険、厚生年金保険の被保険者資格取得・喪失届に関する事務
- 健康保険、厚生年金保険の被保険者報酬月額算定基礎届・月額変更届に関する事務
- 雇用保険被保険者離職証明書の作成
- 労働保険の概算・確定保険料の申告・納付に関する事務
- 就業規則(変更)に関する事務
- 時間外労働・休日労働に関する協定届の作成
- 労働者名簿の調製
(全国社会保険労務士会連合会「従事期間証明書(様式)」より)
「従事期間証明書」は、社労士の登録に必要な2年間の実務経験について証明する書面で、登録を申請するときに必要になります。
社会保険労務士の事務指定講習とは?
実務経験が2年以上に満たない場合には、連合会が実施する事務指定講習を修了すると同等以上の経験があると認められます。
事務指定講習とは、「労働社会保険諸法令関係事務指定講習」のことで、社会保険労務士の登録要件である「2年以上の実務経験」に代わる講習のことです。
事務指定講習の概要
事務指定講習は、社会保険労務士法に基づき、厚生労働大臣の認定を受けて実施されています。
この講習は、実務経験のない人でも必要な知識と技能を身につけ、実際の社労士業務に適応できるようになることを目的としています。
受講資格
社会保険労務士試験の合格者等であって、社会保険労務士の登録を受けていない人
講習科目
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用保険法
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
- 年金裁定請求等の手続
講習内容
講習は、通信指導課程とeラーニング講習の組み合わせで行われます。
通信指導の期間
4ヵ月間(2月~5月)
eラーニング講習の期間
2ヵ月間(7月~9月)の配信中はいつでも受講可能
修了の認定
通信指導とeラーニング講習の所定の要件を満たして、全課程を修了したと認められた場合に、修了証が交付されます。
- 通信指導を期間内に完了すること
- eラーニング講習は、各科目の動画学習を完了して、効果測定のための試験で良好な成績を収めること
申込期間
11月(申込期間以外は、受け付けていません)
受講料
77,000円(税込)
お問い合わせ
全国社会保険労務士会連合会(研修・社会貢献課 研修係)
社労士試験の合格+事務指定講習の修了でできること
事務指定講習を修了すると、社労士登録をして活動できるようになります。
登録には、各都道府県の社労士会に申請を行い、登録料を支払う必要があります。
社労士としての活動
入会するのは、開業する事務所または勤務先か居住地の住所にある都道府県社会保険労務士会とされています。
登録完了後に「社会保険労務士証票」が交付され、正式に「社会保険労務士」として活動できるようになります。
登録申請の流れ
- 入会予定の社労士会に登録申請書を提出
- 都道府県社会保険労務士会:受付、審査
- 全国社会保険労務士会連合会:審査、社会保険労務士名簿の作成
- 登録完了後2週間程度で証票を発行
登録申請に必要なもの
- 社会保険労務士登録申請書
- 個人番号カード画面の写し等
- 社会保険労務士試験合格証書の写し
- 従事期間証明書または事務指定講習修了書の写し
- 住民票の写し
- 写真票(顔写真)
- 戸籍抄本等
事務指定講習のメリットと注意点
事務指定講習は、4ヵ月の通信指導と2ヵ月のeラーニング講習ですので、試験合格から1年弱で社労士として活動することができるようになります。
2年以上の実務経験より短く、未経験から試験合格後、最短で社労士になれるといえます。
- 実務経験を満たしていなくても同等と認められる
- 試験合格から最短1年弱で社労士登録が可能
- 実務の知識が身につく
- 通信指導の課題を期限内に提出しなければ修了できない
- 効果測定の試験に合格する必要がある
- 修了できず、再度、受講する場合にも費用がかかる
講習修了後の選択肢|就職・開業・副業の可能性
事務指定講習を修了して、社会保険労務士として正式に登録すれば、いよいよ実務に携わることができます。
登録後の選択肢としては、大きく分けて「企業への就職」「社労士事務所の勤務」「独立開業」「副業としての活動」の4つが考えられます。
企業の人事総務に就職する
社労士は企業の人事総務で高く評価されます。実務は未経験でも、社労士の資格者として「専門知識がある即戦力」として採用される可能性が高くなります。
社労士事務所に勤務する
独立を考えている場合、まずは社労士事務所で実際の業務を経験することが現実的です。
社会保険手続き、就業規則作成、労働相談対応など、実務に直結するスキルを身につけながら、将来の開業に備えることができます。
独立して社労士事務所を開業する
登録後すぐに独立することもできます。ただし、事務指定講習を終えただけでは難易度は高めです。
開業を目指す場合は、顧客開拓や営業活動が必要になるため、ビジネススキルや集客方法についての準備も欠かせません。
副業・兼業で社労士業務をする
副業や兼業として、社労士業務をすることができます。社会保険手続きのサポートや就業規則のチェック、セミナー講師など、スポット的な仕事からスタートするのも一つの方法です。
支部と自主研究会
社労士会や支部では、研修やセミナーを実施しています。また、所属する社労士会にもよりますが、自主研究のグループもあります。
登録後は、これらに参加して、実務ノウハウを積極的に学ぶことで、よりスムーズに社労士としての活動ができるでしょう。
研究テーマの例
さまざまな研究テーマのグループがありますので、所属する社労士会の自主研究グループをご確認ください。
実務的な勉強会のような取り組みですので、実務経験なしに開業して、仕事を覚えていくにも、同業と知り合うにもよい機会になると思います。私も参加して、いろいろ勉強になりました。
- 賃金制度
- 人事制度
- 雇用形態
- 安全衛生
- 就業規則
- 助成金実務
まとめ|試験合格後に実務経験なしでも社労士になれる!
事務指定講習は、通信指導とeラーニング講習を通じて、社労士として必要となる知識とスキルを習得しながら、社労士の登録資格を得ることができます。
できるだけ早く社労士として活動したい人にとって、この講習の存在は大きいでしょう。
また、社労士にはなりたいけれど実務経験がない人であっても、安心して資格を目指すことができます。
計画的に事務指定講習を受講して、確実に修了することが、社労士キャリアをスタートさせるための重要なステップになります。
社労士としての第一歩を踏み出す参考になれば幸いです。
未経験からの社労士の転職については、こちらの記事でご紹介します。

社労士試験の合格後にすることについては、こちらの記事でご紹介します。

参照:全国社会保険労務士会連合会「事務指定講習」