社会保険労務士の役割は、労働・社会保険の手続きから適切な労務管理へシフトしつつあります。
とはいっても、「労働・社会保険の手続きを代行します」はイメージできても、「適切な労務管理をサポートします」と言われて、何をするのか、何ができるのか?イメージできるでしょうか。
提案を受ける企業だけでなく、これから社労士を目指そうとする人にとってさえ、イメージしにくいところがあるのではないでしょうか。
働き方の多様化や働く人の意識の変化によって、従業員と企業のトラブルが目立つようになっています。労働局などへの労働相談も高い水準が続いています。
「労務」とは労働に関する業務全般のことですので、労働問題は社労士の業務と密接な関係があるといえます。
労働トラブルに対応するだけでなく、トラブルを未然に防ぐことが重要です。ここでは、労働トラブルと社労士ができる対応、期待される役割について具体的にご紹介します。
労働関係のトラブル・相談
労働に関係する相談内容は、労働条件の変更、解雇、ハラスメント、未払い賃金など、多岐にわたります。まずは、起こってしまったトラブルに対して、適切な対応をするために社労士が果たせる役割があります。
顧問先の企業のトラブルであれば、もちろん企業を守ることが求められますが、社員の権利も尊重し、ルールを守る環境づくりにつなげることが必要になります。
また、トラブルが個別労働紛争になったときには、特定社会保険労務士の資格があれば、あっせんにおいて当事者の代理人になることができます。
社労士は、企業と働く人双方の権利を守り、適切な解決へ導く役割を果たすことができる資格です。
特定社労士については、こちらの記事でご紹介します。

労働トラブルの種類
労働に関する問題には、さまざまな内容がありますが、特に次のような問題はトラブルとして相談される件数が多くなっています。労働基準法など法令違反が疑われるものも少なくありません。
解雇・雇止め
不当解雇や雇止めに関する問題は、労働トラブルのなかでも特に多いものの一つです。企業は解雇について合理的な理由を説明できなければ違法となる可能性があります。
また、有期契約社員が一定期間勤務して、契約の更新を期待できる状態であったにもかかわらず、更新が終了となる雇止めも問題となることが多いです。
賃金・残業代未払い
従業員が正当に働いたにもかかわらず、適切な賃金が支払われず、未払い賃金がある場合は、早急に対応しなければなりません。
不正のつもりではなくても、サービス残業や固定残業代の適用ミスなどが問題になりやすく、労働基準監督署による指導の対象となることがあります。
ハラスメント
民事上の個別労働紛争相談件数では、職場におけるいじめ・いやがらせが最多となっています。
パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、マタニティハラスメント(マタハラ)は、働く人の精神的・肉体的負担を増加させるだけでなく、企業の評判にも大きく影響し、採用活動などに支障が出る可能性があります。
企業はハラスメントを防止するための措置を講じる必要があります。
労働条件の変更・不利益変更
労働契約の一方的な変更や、賃金・労働時間の不利益変更もトラブルの原因になります。労働条件を変更する場合に、従業員の同意がなければ、無効になる可能性が高いので、慎重な対応が求められます。
労働災害・安全衛生
労働災害が発生した場合、企業は適切な補償や再発防止策を講じなければなりません。しかし、企業側が労災を認めないケースも多く、トラブルに発展します。
社会保険労務士の役割
トラブルが発生したときに、社労士には何ができるのか?対応できる内容を具体的にすることで、クライアントからの信頼を得ることができます。
相談・助言
社労士は、労働や社会保険に関する専門知識を活かし、企業や従業員に対してトラブルを円満に解決するための助言や指導ができます。
法令違反が疑われるようなケースは、適切な就業環境を整備できるよう支援します。
労働基準監督署・行政機関の対応支援
労働基準監督署による調査や是正勧告を受けた場合、社労士は企業として対応を行います。訴えの内容を理解し、解決に向けて企業の立場・対応を支援します。
企業に是正すべき点があれば、前向きな取り組みを指導します。
個別労働紛争の解決手続
裁判によらない紛争解決手段として、都道府県労働局による「あっせん」があります。訴訟に発展させず、話し合いで解決を図るための制度です。
このあっせんにおいて、特定社会保険労務士は代理をすることができます。
適切な労務管理の遂行
残業代の未払いや不当解雇など法令違反が疑われるような就業環境は改善する必要があります。トラブルや訴えの内容、実際の状況などから総合的に判断して、企業と従業員がともに発展できる環境整備をサポートします。
トラブルの予防
就業環境を改善するために、就業規則の整備や変更を通じて、トラブルの未然防止を図ります。トラブルになってから対処するより、企業にとっても重要なことだといえます。
トラブルを未然に防ぐ労務管理
労働トラブルは企業経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。未払い残業代、ハラスメント問題、メンタルヘルス不調など、企業が直面する労務リスクは多岐にわたります。こうしたリスクを未然に防ぐためには、適切な労務管理が不可欠です。
また、適切な労務管理のために就業環境を整備することはもちろんですが、経営者と社員がルールを理解して、守れるように指導することも重要です。トラブルになるのは、経営者が法令を正確に理解していないケースも多くあります。
社歴も長く、数百人規模の企業の経営者が「社員を即日、クビにした」という話をされて、びっくりしたことがあります。
社長が組織改革を断行していて、自ら設けた基準に満たない社員には辞めてもらったという主旨だったのですが、即日解雇ができるような事案ではなかったので、社員は泣き寝入りだったということになります。
労働に関する法律を表面的にしか理解していなかったり、都合よく解釈している経営者も少なくないのです。これからの社労士は、労働の分野において身近な専門家として相談・助言できる存在になることができるはずです。
就業規則の作成
常時10人以上の労働者を使用する使用者には就業規則の作成・届け出が義務付けられています。就業規則の作成は、適切な労務管理をするうえで、最も基本で重要な社労士業務といえます。
社労士が適切に関与することで、企業の実態に即した就業規則の整備が可能となり、トラブルを未然に防ぐことに貢献します。
就業規則の整備
企業の規模や実情に合った就業規則を作成、あるいは見直して、変更します。働き方が多様化して、労務管理が複雑になっていますので、社会や働く人のニーズに合っていることも重要です。
- テレワークなど勤務時間の明確化
- 副業・兼業のルールを明文化
トラブルを防ぐ対応
就業規則は作成するだけでなく、経営者も社員も社内の基本的なルールだと理解して、適切に運用していくことが重要です。
新たに作成したり、重要な変更があった際に、社内で周知徹底されているかまでサポートすることが社労士の仕事といえます。
適切な勤怠管理
長時間労働やサービス残業はトラブルになることが多く、適切な勤怠管理は企業にとって重要な課題です。社労士が勤務時間の適正な管理をサポートすることで、法令遵守を徹底し、企業の労務リスクを軽減できます。
勤務時間の適正化
- 勤怠管理システムの導入支援
- 36協定の作成・届出
- フレックスタイム制や変形労働時間制の導入支援
残業の適正化
- 割増賃金の適正な支払いを確認
- 残業時間の上限を管理
ハラスメント対策
パワハラ、セクハラ、マタハラは職場における三大ハラスメントとされています。職場でのハラスメントは企業の信用を失墜させる要因となります。
ハラスメントのトラブルは、ハラスメント行為について、経営者と管理職が正しく理解することで減らすことができる問題です。
社内の方針を明確にして、定期的に研修を実施するなどで企業のリスクを軽減できます。社労士は企業が行う措置を支援します。
ハラスメント防止の措置
- ハラスメントに該当する行為と企業の方針を周知する
- 処分を明確にする
- 相談窓口を設置する
研修の実施
- 管理職向けハラスメント防止研修。
- 従業員向けの啓発活動。
メンタルヘルス対策
メンタルヘルス不調者の増加は、企業の生産性低下や社員の休職・退職につながる重大な経営課題です。社労士は、正しい勤務時間の把握、職場環境の改善、就業規則の見直しなど、さまざまな支援を行うことができます。
職場環境の改善支援
- 長時間労働の削減策の提案
- メンタルヘルス研修の実施
ストレスチェック制度の導入支援
- ストレスチェック実施のサポート
- 高ストレス者のフォロー体制整備
休職・復職制度の整備
- 休職・復職制度の導入支援
- 休職・復職の判断基準を明確化
- 産業医との連携強化
まとめ
労働トラブルは、企業経営に大きな影響を与える重要な問題です。社労士には、専門知識を活かして問題解決を支援し、トラブルになりにくい職場環境を整備する役割があります。
企業にとっても関心の高い問題ですし、トラブルを未然に防ぐためにも労務相談の重要性は高まっていくでしょう。
健全な職場環境を築くことで、持続可能な企業運営が可能になります。企業が成長し、従業員が能力を発揮できる職場を実現するために、社労士は専門家として貢献することができます。
社会保険労務士の業務
★社労士の業務内容:1号・2号・3号
★社労士のコンサルティング業務
★社労士の給与計算業務
★メンタルヘルスに関する社労士業務
★ハラスメントに関する社労士業務
★社労士事務所での業務
★一般企業で社労士ができる業務
★社労士の業務委託契約と報酬
参考:厚生労働省、全国社会保険労務士会連合会