社会保険労務士は、企業経営を「人」からサポートしますが、企業経営者は税務に関しての相談や悩みを抱えていることが少なくありません。
社労士の資格者が税理士の資格を取得すれば、「労務 × 税務」の総合サポートができるようになり、より多くのクライアントに信頼されるプロになることができます。
ここでは、社労士が税理士資格を取得するメリット・デメリットやキャリアの可能性についてご紹介します。
社会保険労務士と税理士の資格
社会保険労務士は「人」から税理士は「お金」から企業経営をサポートできる国家資格です。
社会保険労務士とは
社会保険労務士は、1968年に制定された「社会保険労務士法」によって制度化された国家資格です。
この法律は、
「労働及び社会保険に関する法令の円滑な実施に寄与するとともに、事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的」(同法第1条)
(e-Gov法令検索|社会保険労務士法より)
として制定されました。
社会保険労務士の主な役割は、企業をサポートして働く人の福祉を守り、双方にとって最適な環境を作ることといえます。
税理士とは
税理士は「税理士法」において、次のとおり定められています。
(税理士の使命)
第一条
税理士は税務に関する専門家として、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念にそって、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。
(e-Gov法令検索|税理士法より)
税理士は、「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」3つの独占業務と、それ以外の業務を行っています。
- 税務代理
納税者を代理して、確定申告、青色申告の承認申請、税務調査の立ち合い、税務署の更生・決定に不服がある場合の申し立てなどを行います。 - 税務書類の作成
納税者に代わって、確定申告書、相続税申告書、青色申告承認申請書、その他税務署などに提出する書類を作成します。 - 税務相談
顧問先の会社や納税者から税務に関する相談に応じます。 - e-TAXの代理送信
納税者の依頼で、e-TAXを利用して申告書を代理送信することができます。 - 会計業務
税理士業務に附随して財務書類の作成、会計帳簿の記帳代行、その他財務に関する業務を行います。 - 補佐人
税務訴訟において、納税者の正当な権利、利益の救済を援助するため、補佐人として、訴訟代理人である弁護士とともに裁判所に出頭して、陳述します。 - 会計参与
中小の株式会社の計算関係書類の記載の正確さに対する信頼を高めるため、「会計参与」は、株式会社の役員として、取締役と共同して、計算関係書類を作成します。
税理士は会計参与の有資格者として、会社法に明記されています。
社会保険労務士と税理士ダブルライセンスの効果
社労士は労働・社会保険に関する専門家であり、企業経営を「人」の面で支える役割があります。
税理士は税務・会計の専門家として、企業経営を「お金」の面で支えます。
ダブルライセンスのメリットとは?
社労士が税理士の資格を取得するメリットは多く、開業する場合には大きな強みになります。
メリット①
✓業務範囲が広がる
社労士として労務管理、税理士として税務管理の業務をすることで、企業経営を「人」と「お金」の両面からサポートできます。
メリット②
✓クライアントのニーズに応えやすい
顧問先の経営課題が労務面・税務面にまたがる場合、ワンストップで対応できるため、顧客満足度が向上します。
メリット③
✓独立開業しやすい
両方のライセンスを持つことで、独立開業時に安定した収入基盤を築きやすくなります。
メリット④
✓収入が安定・拡大する
業務範囲が広がることで、新しいクライアントを獲得しやすくなり、収入アップの可能性が高まります。
ダブルライセンスのデメリットとは?
ダブルライセンスはメリットが多いですが、デメリットがないわけではありません。
デメリット①
✓資格取得のハードルが高い
いずれの資格も難易度が高く、取得には相当な勉強時間と労力が必要になります。
デメリット②
✓業務負担が大きい
二つの業務範囲をカバーするため、業務量が増え、効率的な時間管理が求められます。
デメリット③
✓専門性の維持が難しい
労務管理と税務管理はそれぞれ専門性が高く、常に最新の知識をアップデートし続ける必要があります。
ダブルライセンスを活用するには?
社労士が税理士資格を取得することで、キャリアの可能性は大きく広がります。
労務管理から税務処理までワンストップで対応し、新規顧客にアプローチしやすくなります。
- 独立開業してコンサルティング業務
社労士と税理士の資格者として、中小企業向けの経営コンサルティング業務を展開できます。 - 副業として活用
本業を持ちながら、税理士として副業で個人事業主や小規模企業のサポートを行い、収入源を多角化することができます。
社会保険労務士と税理士の資格をダブル取得するには?
社労士と中小企業診断士いずれも資格を取得するには、試験に合格する必要があります。
社労士になるには
一般的に社労士試験の合格に必要な学習時間は800~1,000時間程度とされています。費用は学習スタイルにより幅がありますが、数千円から25万円程度かかるでしょう。
社労士の試験内容から勉強時間、学習スタイル、科目対策などは別の記事でご紹介しています。
税理士になるには
税理士資格を取得するためには、税理士試験に合格する必要があります。
科目別合格制を取っていますので、1科目ずつ合格を目指すことができます。
税理士試験は、税理士になるために必要な学識およびその応用能力があるかどうかを判定する試験です。
学識による受験資格
- 大学または短大を卒業した人で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した人
- 大学3年次以上で、社会科学に属する科目を含む62単位以上を取得した人
- 一定の専修学校の専門課程を修了した人で、社会科学に属する科目を1科目以上履修した人
- 司法試験合格者
- 公認会計士試験の短答式試験に合格した人
資格による受験資格
- 日商簿記検定1級合格者
- 全経簿記検定上級合格者
職歴による受験資格
- 法人または事業行う個人の会計に関する事務に2年以上従事した人
- 銀行、信託会社、保険会社等において、資金の貸付け・運用に関する事務に2年以上従事した人
- 税理士・弁護士・公認会計士等の業務の補助事務に2年以上従事した人
試験情報
- 試験日:年1回(8月)
- 試験地:全国の各国税局、国税事務所の所在地で行われます。
- 試験内容:試験は会計学の2科目と税法のうち選択する3科目について行われます。
・会計学(簿記論・財務諸表論)
・税法(所得税法・法人税法・相続税法・消費税法・酒税法・国税徴収法・住民税・事業税・固定資産税) - 合格基準:合格基準点は各科目とも満点の60%です。
合格科目が会計学に属する科目2科目および税法に属する科目3科目の合計5科目に達したとき合格者となります。 - 合格率:15%程度
- 問い合わせ:各国税局・国税事務所
科目免除
税理士試験には科目の免除制度があります。
- 学位による免除
・博士(会計学専攻):会計科目の免除
・博士(税法科目専攻):税法科目の免除
・修士(会計学専攻):会計科目のうち1科目の免除
・修士(税法科目専攻):税法科目のうち2科目の免除 - 資格による免除
・弁護士:全科目免除
・公認会計士(税法に関する研修修了):全科目免除 - 国税税務職員
・所得税などの事務に10年以上従事:税法科目の免除
・その他の事務に15年以上従事:税法科目の免除
・上記の業務に23年または28年以上従事(指定研修を修了):会計科目の免除
科目合格制になっていて、一度に5科目を受験する必要はなく、1科目ずつ受験してもよいことになっています。
合格科目は生涯有効です。
税理士の勉強法
税理士の資格を取得するには、独学や通信講座、資格スクールなどで勉強する方法があります。
保有資格や免除科目の有無などによって、最適な学び方は変わってくるでしょう。
一般的には試験対策の税理士講座を受講して合格を目指す人が多いといえます。
資格の取得期間
科目合格制を取っていますので、一度にすべての科目に合格する必要はありません。3年から7年程度かけて合格する人が多いようです。
学習のポイント
好きな科目を選んで受験することができますが、多くの人は必須である会計科目から受験しています。
簿記論や財務諸表論に合格してから税法科目を受験するという順序が望ましいといえるでしょう。
合格者が多い税理士講座
資格の大原(社会人講座)では、通信・通学ともに多数のコースが用意されています。
官報合格者の半数以上が大原グループという実績(2023年度)があります。
まとめ|社労士×税理士のダブルライセンスで広がるキャリア
社労士と税理士のダブルライセンスは、確かな専門性と幅広い業務範囲を兼ね備えたとても強力な資格の組み合わせといえます。
独立開業を目指す人には、経営者からのニーズが高く、安定したビジネス基盤を築くことに役立ちます。
また、副業として収入を多角化することもできるでしょう。
もちろん、資格取得までの道のりは決して簡単なものではありませんが、税理士の資格を取得することで、「人」と「お金」の両方を支えるプロフェッショナルとしてのキャリアが開けます。
社労士は知名度が高いとはいえませんので、税理士という強力な武器を加えることで営業がしやすくなることは間違いないでしょう。
税理士は科目合格制を取っていて、合格した科目には有効期限がありませんので、何年かけて合格してもかまいません。
試験は簡単ではありませんが、働きながらチャレンジできる有望資格といえます。
参照:国税庁、日本税理士会連合会、e-Gov法令検索
試験情報は変更される可能性があるため、最新情報は試験実施機関の公式サイトをご確認ください。